2003年11月14日

白川 浩道
小泉改革路線の後退が続く



 衆議院選挙で、野党第1党である民主党に対する国民の支持が拡大したことは何を意味するのであろうか。北朝鮮拉致問題の解決が遅れていることに対する嫌気、自衛隊のイラク派遣に強く拘泥するなど、米国ブッシュ政権ベッタリの小泉外交に対する危機感、道路公団総裁解任問題の混乱や比例代表区における定年制導入に絡むゴタゴタに対する呆れ、など、様々な要因が民主党の追い風となったのは事実である。

 しかし、与党が苦戦した最大の背景は、小泉政権の構造改革路線が後退し、その結果、日本経済の将来展望がますます開けなくなっているという、国民の閉塞感の強まりではないだろうか。重要なことは、野党にも国民の閉塞感を打開するだけの力はなかったということである。与党が苦戦したとは言え、なんとか過半数は維持できたからである。今回の選挙をマニュフェスト選挙と呼ぶ向きがある。しかし、実際に、与野党が公の場で経済政策に関する討議を十分に尽くしたとは到底思えない。日本経済における閉塞感の強まりが、都市部を中心にした有権者の「現行の政治体制からの逃避」を促したに過ぎない。

 今年の日本経済と株式市場の特徴を最も端的に表す言葉は「モラルハザード」(道徳的危険)である。経済、市場の至るところにモラルハザードが蔓延している。しかし、その結果、景気は回復し、株価は上昇した。経済構造改革が成功して株価が上昇したわけではまったくなく、むしろ、現実には、その逆が起こっている。

 確かに、一部の国際優良企業は、合理化、リストラを加速させてきた。その結果、利益率が向上し、外人投資家からも高い評価を得た。ただし、これは、ミクロ企業のリストラと呼ぶべきものであり、政策による構造改革とは質が異なる。リストラと改革(リフォーム)を混同してはならない。

 その改革の方は、進展しているどころか、後退している。大手企業への救済策導入、日銀による過大な流動性供給の継続、危機予防型の銀行への公的資本注入、不良債権処理における私的整理の拡大、財政構造改革の先送りなど、小泉政権は、この1年半程度の間、短期的な経済安定の達成に全力を挙げてきた。

 大型の企業・銀行倒産は起こさない、という政府の方針を受けて、個人や企業のマインドが改善し、これが設備投資の回復や個人消費の安定化をもたらしてきたのである。しかし、日本経済における資源配分が効率化し、真の意味で経済が活性化したわけではない。これが、多くの国民が抱く、閉塞感の背景である。モラルハザードに支えられた景気回復では、国民の気持ちを真の意味で明るくすることはできないのである。株価が底値から4割強も上昇したにもかかわらず、与党の楽勝とならなかったことは、その良い証拠である。

 与党苦戦といった衆院選の結果を受けて、これまでのモラルハザード促進型の政策運営は転換を迫られるであろうか。与党は、国民の閉塞感を打開すべく、構造改革路線を再加速させるのであろうか。答えはノーであろう。なぜなら、株式市場はモラルハザード促進型政策を歓迎しているからである。株価の上昇が国民の閉塞感打開になんらの効果を持っていないにもかかわらず、政府・与党は、株価の下落を恐れ、経済構造改革の加速をためらう可能性が高い。

 政府・与党にとって、株価水準の維持が従来にも増して重要になったのは、今年の株価上昇が外人投資家の積極的な日本株買いに大きく依存してきたからに他ならない。政府・与党は、外人投資家を失望させるわけにはいかないのである。そして、その外人投資家は、長期的にみて日本経済のファンダメンタルズを強くする経済構造改革ではなく、短期的な日本経済の安定を望んでいる。

 経済政策面での最重要課題は、国の財政健全化と金融システムの安定である。財政健全化に関しては、公的年金制度改革を中心とした社会保障制度の見直し、歳入強化に向けた税制改革、が喫緊の課題である。他方で、金融システム安定化に関しては、不良債権処理の加速と金融機関の過小資本の解消が2つの重要なターゲットである。

 短期的な日本経済の安定を目指すのであれば、社会保障制度改革、税制改革ともに、それらが大幅な増税となることは避けなくてはならなくなる。最大の焦点である基礎年金部分に対する国庫負担の引き上げについては、うやむやのうちに先送りされる可能性が高い。その結果、定率減税の廃止や公的年金等控除の縮小といった財政健全化措置も棚上げにされるのではないか。国債発行圧力がその分高まるであろうが、それは日銀の国債買い切りオペ増額でしのぐということになるであろう。

 また、金融システム対策では、株主や借り手のモラルハザードをさらに高める、予防的な公的資金注入の枠組みを作る動きが本格化するであろう。金融機関に甘い条件で公的資金を注入し、借り手企業の債務を棒引きする、という、金融社会主義的なオペレーションがさらに拡大するであろう。

 外人は、こうした政策を好感し、株価も上昇基調を維持することになると予想する。しかし、国民は、「資本と労働という2つの経済資源が公的部門や生産性の低い産業・企業から解放され、新たな成長産業を生み出していく」、そういったダイナミズムに接することはない。さらに、財政健全化が先延ばしされることによって、漠たる将来不安を今後もずっと抱えて行かなくてはならない。不幸なことである。

 閉塞感を嫌う国民が勝つか、モラルハザード路線を志向する与党が勝つか、来年夏の参院選がその答えを出してくれるだろう。

以 上
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