2003年12月15日

白川 浩道
悪い金利上昇のリスク



マネタリーベースの伸び率は大きく低下する見込み
 11月のマネタリーベース(現金プラス日銀当座預金)の前年比は16.7%と10月の20.6%から減速した。季節調整済みの前月比では10.5%の減少となった。しかし、これは別にサプライズではなく、予想された事態である。
 マネタリーベース前年比は、来年3月までは、「十分な量的緩和」の目安となる15%をなんとか維持できるものと予想する(これは、来年2月に実質的な追加緩和<当座預金ターゲットの上限は32兆円で据え置きながら、年度末にむけて一時的に資金供給量を34、35兆円程度に引上げ>が行われることが前提となる)。しかし、来年4月以降は、マネタリーベース前年比があっさり一桁台に低下するであろう。4−6月期の前年比平均は6%程度になるものと推計される。なぜなら、来年度入り後の量的緩和追加を期待することはほぼ不可能であるからだ。

なぜ量的緩和は追加されないのか

なぜ、量的緩和は追加されないのか。ポイントは3つある。

 1. 最大の理由は、量的緩和追加の必要性が低下していると日銀が判断するからである。来年4月以降、新法の下で、地銀中位行等を対象とした予防的な公的資金注入が実施されるものと見込まれるが、こうした状況で、日銀は、金融システムの安定化に対する自信を一段と強めることになるだろう。予防的公的資金注入が広範囲で実行される下で、流動性リスク拡大を防止するための量的緩和措置は、徐々にその意義を失う、と日銀は判断することになる。

2. 第2には、技術的な制約である。公的介入拡大の下での銀行システム安定化の前進は、広く銀行部門における日銀当座預金に対する需要を低下させる可能性が高い。日銀が、補助金を与えでもしない限り(マイナス金利での資金供給オペの実行)、当座預金残高を大きく拡大させることは不可能であろう。銀行による日銀当座預金需要の臨界点を予測することは容易ではないが、来年度入り後の早い段階で、30兆円を大きく上回るような当座預金供給は困難になる可能性が高い。

3. 第3には、一部審議委員や日銀事務方の間では、現在の量的緩和政策からの脱出が真剣に模索されている。彼らの目には、「これ以上の量的緩和の追加は、量的緩和政策からの脱出時における市場へのショックを強めるだけ」と映るものとみられる。量的緩和政策の継続にコミットすることと、量的緩和を追加することは本質的に異なるのである。

マネタリーベース前年比の大幅スローダウンは問題か?

 我々が予想するように、マネタリーベースの伸び率が大きくスローダウンした場合、それは問題であろうか。

 日銀が考えているように、量的緩和の拡大が、基本的には、銀行システムの流動性リスクを抑制するものであるなら、大きな問題はないはずである。なぜなら、マネタリーベース供給ペースの縮小は、銀行に対する公的資金の積極的な投入と引き換えに実施されるからである。

 しかし、量的緩和の拡大には銀行の流動性リスクを縮小させる以上の効果があった、すなわち、例えば、長期金利の上昇抑制や円高の阻止といった効果があった、と考えるならば、量的緩和ペースの縮小は、長期金利の上昇、ないしは、円高といった弊害をもたらすことになる。

 個人的には、マネタリーベース前年比の縮小(すなわち、日銀バランスシート拡大ペースの縮小)は、長期金利に対して上昇圧力をかける可能性が高いと考える。なぜなら、政府部門のバランスシートは着実に拡大すると予想されるからである。実際、来年度の新規国債発行額は38兆円程度(今年度は30兆円強の見込み)に拡大する見込みである。こうした中で、日銀に対しては、中長期国債輪番オペの拡大要求が強まる可能性があるが、それが実現するかどうかは微妙である。政府・日銀は、財政の健全化を、増税措置といった王道の下で進めようとしており、日銀による安易な財政赤字ファイナンスといった政策オプションはこれまでよりも遥かに進展しにくくなっている。

 米国FEDの予防的な利上げと時期を同じくして、日本でも、マネタリーベースの伸び率縮小といった、一種の金融引き締めが起こる可能性が高まっている。財政当局と金融政策当局の蜜月は終焉を迎えつつある。来年は「悪い長期金利上昇」によって、景気が腰折れるリスクがかなりあり、注意したい。

以 上
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