2003年12月22日

白川 浩道
財政政策と金融政策の蜜月は続かない




 今年を振り返って強く感じることは、財政政策と金融政策の協調が極めてうまくワークし、その結果、年央以降、世界景気がリバウンドしたということである。より端的に言えば、日本と中国の当局が為替介入によって供給した「膨大な」流動性が、米国の財政赤字をファイナンスし、世界的な長期金利の上昇を抑制するとともに、景気の拡大をもたらしたのである。また、米国FEDも長期金利の安定化に一役買った。米国FEDは米国版輪番オペこそ導入しなかったが、FF金利1.0%という歴史的な低金利政策を維持し、さらに、日銀に倣って、時間軸効果の導入に踏み切った。

米国の擬似的な財政赤字プレミアム(10年物米国債利回りと名目成長率の格差)と、米国連邦政府のフローベースでの借入れ(対GDP比)


上のチャートをご覧頂きたい。チャートには、米国の擬似的な財政赤字プレミアム(10年物米国債利回りと名目成長率の格差)と、米国連邦政府のフローベースでの借入れ(対GDP比)がプロットしてある。注目すべきは、昨年央から、この両者の乖離が大きく強まっていることである。連邦政府の借入れは拡大しているにもかかわらず、長期金利水準は名目成長率に比べて低い状態が継続している。言うなれば、政府の赤字は増えているのにもかかわらず、米国債市場では、それが十分に価格には反映されていないのである。これを、財政と金融の「蜜月」と呼ばずして、なんと呼べばよいのか。名目所得が拡大しているにもかかわらず、金利水準が上昇しないのであれば、米国の企業や家計がバランスシートを縮小させる理由はない。彼らは、むしろ、まだまだ負債を積み上げられると考えるはずである。米国景気が足元で高い成長をしていることは不思議なことではない。


仮に、日、中、米の中央銀行当局が、景気の先行きを楽観視し、あるいは、中央銀行のメンツにこだわり、流動性の縮小や予防的な利上げに動いていたならば、米ドル実効為替相場のより大幅な下落と米国長期金利のより大幅な上昇、が生じていたであろう。その場合、米国長期金利の大幅上昇による内需抑制効果によって、米国景気は、既に、下降局面入りしていた可能性すらある。米国経済の外需への依存度の低さからすれば、米ドル下落の景気刺激効果は限定的であると考えられるためである。


来年の最大のテーマは、こうした財政政策と金融政策の蜜月状態(ハネムーン)が維持されるのかどうかである。「蜜月」が終焉した場合には、財政プレミアムが一気に拡大し、長期金利が急騰、その結果、世界景気が大きな後退の圧力に晒されることになる。世界中の多くの投資家は、「蜜月」の終了を予想していない、あるいは、希望的な観測として、予想したくないのではないだろうか。FEDによる利上げはないはずである、日銀の量的緩和政策は変化しないはずである、日中の為替政策に変化はないはずである、と。


しかし、本当にそうであろうか。リスクは全くないのであろうか。中央銀行当局は、現下の世界的な景気回復を本当に喜んでいるのであろうか。答えはノーであろう。現在の米国の景気回復ほど、不安定な景気回復はないからである。本来、上昇すべき長期金利水準が他国を含めた金融緩和によって抑制されることで、企業や個人の間に楽観論やモラルハザードが蔓延し、その結果、必要なバランスシート調整が先送りされ、債務が積み上がり、対外的な不均衡が拡大する。これが、現下の米国経済の成長の姿である。金融緩和を継続すればするほど、調整圧力は遠のくが、最後に払うツケは大きくなる。足元の景気拡大を謳歌すればするほど、その後のスローダウンは厳しいものとなる。そして、その発端は、市場が財政プレミアムを適切に織り込んでいないという、市場の歪みにあり、その歪みを作り出しているのは、日、中、米の中央銀行当局なのである。


来年の世界経済が好調を持続するという予想は、中央銀行が、世界的な不均衡の拡大を当面容認すること、換言すれば、世界経済不安定化のリスクに当面目をつぶること、を前提としたものであることを忘れてはいけない。個人的には、中央銀行は、持続的かつ安定的な成長を望むものと考えている。財政赤字の安易なファイナンスを継続した場合のツケ、すなわち、景気刺激を継続したことのツケは、より大きな景気調整であり、また、財政支援の泥沼化である。その意味では、FEDや日銀が、政策の正常化を図ろうとすることは自然でさえある。


財政政策と金融政策の「蜜月」は早晩、転換を迎えるであろう。

以 上
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