2004年02月13日

白川 浩道
景気は年後半から後退局面へ



 景気は年後半から再び後退局面に入るだろう。 足元の成長力が強いにせよ、2004年度の実質GDP成長率は高々1%台半ばに止まるであろう。 2004年度の実質成長率も2%を楽々上回る、という市場の平均的な予想は裏切られることになる。


 景気が再び後退局面に入ると考えられる理由は4つある。


 第1には、製造業を取り巻く収益環境の悪化である。 バブル崩壊後の1991年から始まった製造業産出物価の下落傾向には依然として歯止めがかかっていない。 他方で、投入物価は、2002年以降、緩やかに上昇しているが、足元ではその傾向が強まっている。 特に、素材関連業種で、輸入原材料・中間財の価格上昇が顕著になっている。 この結果、製造業全体でみた交易条件は、ここ2年程度、悪化を続けている。


 一部の業種(鉄鋼等)では、投入コストの上昇が製品価格に反映される方向にある。 しかし、世界的な最終財の競争環境に大きな変化が生じない限り、製造業が投入価格の上昇を広く産出価格に転嫁できるとは考えにくい。 この結果、売上マージンでみた製造業の収益環境は、今後、悪化の一途を辿るだろう。 製造業の設備投資回復のモメンタムは、短期的にはそれなりに強いが、その持続性には期待できない。


 第2には、製造業の雇用リストラが再び強まる可能性が高い。 収益環境が悪化している下での足元の設備投資拡大は、製造業に改めて大幅な人件費削減を迫ることになろう。 法人企業統計をみると、製造業では、2002年後半から2003年前半にかけて、人件費の削減が加速し、売上マージンの回復が緩やかであったにもかかわらず、経常利益が回復した。 2004年前半には、これと類似した状況が発生するものと想定される。


 製造業雇用者の非農業部門雇用全体に占める比率は20%程度に過ぎないが、昨年の個人所得回復局面では、製造業の賃金回復が、全産業ベースの賃金(2003年前年比−0.4%、毎勤統計ベース)を0.6%ポイント程度押し上げた実績がある。 卸売業の雇用・賃金環境も製造業の業況に大きく左右される傾向があることを合わせ考えれば、製造業におけるリストラ圧力の高まりは、個人部門全体の所得環境を悪化させるに十分なインパクトを持つだろう。


 第3には、財政政策緊縮化による消費者センチメントの悪化である。 昨年10−12月期の家計調査で最も注目すべきことは、勤め先収入を中心とする実収入が前年比減少(−0.8%)を続ける中で、非消費支出(税・社会保険料)が、社会保険料負担の大幅増加を背景に増大(+3.5%)したことである。 社会保障負担の総報酬制移行のマイナス・インパクトが顕現化した。 収入が減少すれば、税・社会保険料負担が減少し、可処分所得の縮小が軽減されるという、財政のビルトイン・スタビライザー機能はついに消失した。 消費者のセンチメントは、今後、趨勢的な悪化過程に入るであろう。


 第4には、世界景気のスローダウンである。 足元の世界景気を牽引しているのは明らかに米国経済である。 しかし、その米国経済の成長を支えている超低金利状態は、年央までに修正されるであろう。


 まず確認しておきたいことは、現下の米国景気は完全に流動性景気の様相を呈しているということである。 我々の推計によれば、米国の実質耐久消費財消費が実質個人可処分所得の動きによって説明されない誤差が6−7%程度にも及んでいる。 実質耐久消費財消費の実力が前年比+4、5%であるにもかかわらず、実際には、10%を超える成長をしているわけである。 誤差を説明する最も有力な変数は実質長期金利のトレンドからの下方乖離である。


 米国における超低金利状態の裏側では、米国債バブルが生じている。 今、世界の金融市場で最大のミスアラインメント(不均衡)を起しているのは、米国債市場である。 国際投資家の間では、米国10年国債利回りのフェアバリューは6−7%程度であるとの意見が一般的である。 こうした水準は、名目GDP成長率(昨年10−12月期の前年比は6%程度)、連邦政府借り入れの規模(年率でGDP比4%程度)などからみて、妥当なところであろう。


 米国債バブルが崩壊し、米国長期金利が大幅に上昇するのはいつだろうか。 その鍵を握るのは為替市場である。 為替市場で米ドル相場が反転上昇すれば、日本は為替介入の合理性を失う。 その結果、為替介入が実際に減少すれば、米国債バブルは終焉する。
問題は、米ドル相場反転上昇のきっかけが何によってもたされるかである。 米国金融政策の引き締め転化予想、米国景気の日欧景気に対する相対的優位性の再認識、財政政策健全化期待、などがその候補となるだろう。 いずれにせよ、市場は、早晩、強い米国経済とそれを背景とした国内マクロ経済政策運営の正常化を予想することになるだろう。 そして、皮肉にもそこが世界景気のピークなのである。


 

以 上
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