2004年06月11日

白川 浩道
長期金利の2%超えが視野に入った



 マクロ経済環境、金融政策運営の状況等からすれば、長期金利(10年国債利回り)の上昇が当面継続すると考えざるを得ない。2%超え、場合によっては、2.5%という水準が6ヶ月以内に生じる可能性がある。マクロ経済環境、流動性、金融政策の3つの観点から、長期金利の先行きを考えてみたい。


1.マクロの経済環境

 そもそも、最近の債券市場は、ここ1−2四半期における景気の回復を無視してきた嫌いがある。長期金利水準との間でもっとも深い関係があるとみられる名目GDP成長率は、足元の1−3月期では前年比3%に到達した。大きなジャンプである。

 無論、こうした高い水準が長期間に亘って持続可能なわけではないだろう。しかし、堅めに見積もっても、2004年度全体でみた名目GDP成長率はプラス1%台半ばには到達する。

 問題は、来年度であるが、現状では、世界経済の緩やかな減速の下で、プラス0.5%程度に減速するものとみられる。従って、今後、1−2年程度の名目GDPの平均的な成長速度はおよそ1%ということになる。

 過去のデータからすれば、名目GDP成長率と10年債利回りのスプレッドは、およそ110ベーシスである(1983年以降の長期平均)。このことは、長期平均と同レベルのスプレッドが要求された場合、来年にかけて、10年債利回りが2%を少し超えるところまで上昇してもおかしくないことを意味する。


2.流動性

 次に市場の流動性も長期金利水準に影響を与える。ここでのポイントは、景気の回復感が強まっているため、日銀による追加緩和の可能性はほぼゼロとなってしまったことである。この結果、マネタリーベース前年比は、今後、一桁の前半まで急減速する可能性が高い。こうした中で、国債の発行の方は淡々と継続するため、日銀の国債市場におけるプレゼンスは低下していくことが予想される。

 日銀による政府債務(国債)マネタイゼーションの程度を測る物差しとしては、マネタリーベース前年比と国債市中現存額前年比のスプレッドがある。例えば、マネタリーベース前年比の伸び率が国債市中現存額前年比の伸び率を上回っていれば、日銀が積極的に政府債務を購入していることが示唆され、マネタイゼーションのペースが速いと受け取ることが可能である。逆に、マネタリーベース前年比の伸び率が国債市中現存額前年比を下回っていれば、その逆の状態が生じていることになる。

 重要なことに、今後、年末にかけて、このスプレッドは、マイナス5、6%ポイント以上となることが見込まれる。マネタリーベースの伸び率が急激に低下するからである。ちなみに、同スプレッドの過去20年間の長期平均は−0.8%ポイント(マネタリーベース伸び率の方が低い)である。従って、長期平均を大きく上回る形で、日銀による国債マネタイゼーションのペースが鈍化することが示唆される。このことは、日銀の流動性供給によって小さく抑えられていた国債市場におけるプレミアムが、反動的に大きく拡大するリスクがあることを意味する。上記でみた、10年国債利回りと名目成長率のスプレッドが、長期平均以上に拡大するリスク、すなわち、長期金利が急激に上昇するリスクを看過できない。


3.金融政策

 最後に金融政策運営であるが、これについては、日銀が、物価参照値政策の導入に踏み切らざるを得ないとみる。 日銀は、同政策の導入によって、CPIコア前年比が少なくとも+0.5%程度に上昇するまでは、現在の量的緩和を維持することになるだろう。追加緩和はなくとも、現状維持が継続するということである。

 量的緩和政策の長期化にコミットせざるを得ないのは、量的緩和政策を解除することで市場流動性を25兆円以上も吸収することは、当面、許されないからである。大規模の流動性縮小は国債市場を崩壊させ、長期金利の暴騰を招くとともに、財政赤字問題を悪化させる可能性が高い。それが許される状況にはないのである。

 しかし、物価参照値政策の導入は、一定の期間について、実質政策金利(コールレート・マイナス・CPI前年比)がマイナスになることを意味する。これは、未曾有の金融緩和政策の採用と言える。景況感は、一段と改善し、インフレ期待が強まるであろう。その結果、外人投資家の日本経済の持続的成長に対する期待も一段と強まるであろう。物価参照値政策の導入は、長期金利を低下させるものではなく、緩やかな上昇をもたらすものとなるであろう。


 

以 上
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