2004年06月29日

白川 浩道
7−9月期の焦点は再び米国債市場



 世界経済の動向、そして、日本のデフレ脱却と景気回復の持続性を左右するのは、引き続き、米国経済である。


 米国経済がハードランディングとなれば、中国の信用引き締め政策がマイルドなものに止まっても、日本の成長率の大幅な鈍化は免れないだろう。ITバブル期のように在庫の積み上がりがみられているわけではなく、また、これまでの企業リストラによって、利益率が上昇しているので、日本経済が深いリセッションに陥る可能性は低い。それでも、デフレ脱却が遠のくことで、企業のバランスシート調整が長期化し、市場では、再び日本のマクロ経済に対する悲観論が強まる可能性が高い。


 我々の分析によれば、米国経済が、今年4%、来年2%の実質GDP成長率を確保してくれれば、日本経済はCPIでみたデフレから脱却し、バランスシート調整の終焉によって、息の長い回復軌道に乗る。これは、フィリップス曲線やいくつかのセンシティビティ分析に基づいた結論である。単純に言えば、米国経済が、来年、実質成長率でみて2%に満たないようなハードランディングとならない限り、日本経済に対する強気見通しを維持できるというものである。


 従って、我々の最大の関心事項は、米国経済がハードランディングするか否かである。そして、その鍵を握っているのは、引き続き、米国債市場、すなわち、米国長期金利である。米国長期金利が急激に上昇した場合、米国経済は、耐久消費財消費と住宅投資という2つのエンジンを失うことになる。それが企業利益の悪化に繋がれば、設備投資も下押しされるだろう。外需に頼れない米国景気は大幅に鈍化することになる。


 7−9月期の焦点は、再び、米国債市場の動向である。我々は、日々丹念に、米国債市場、為替市場の動向をウォッチしていかなくてはならない。米国長期債利回りがマクロ経済データに関係なく上昇を始めるとともに、米ドル相場が堅調に推移したら(日本の為替市場介入のチャンスが完全に失われる)、要注意である。


 ポイントを以下に示しておこう。


[1] 米国長期金利と米国財政赤字の関係は、依然として、大きく崩れたままである。今後、米国財政赤字がピークアウトしていくにせよ、過去をみる限り、財政赤字が存在している局面では、10年物長期金利が名目成長率を幾分なりとも上回っている。足元のトレンドでみた名目成長率が6%程度であれば、10年物金利が7%程度であっても不思議ではない。


[2] 従って、実際の米国長期金利は、理論的には正当化することが困難な‘低水準’に抑えられているとみることができる。こうした米国長期金利の低さをもたらしている最大の背景は、昨年来の膨大な為替市場介入であろう。


[3] 日本による米ドル買い介入は、4月以降、行われていない。こうした中で、米国10年物金利は1−3月期のボトムから1%ポイント程度上昇した。重要なことは、“1%ポイントも”上昇したのではなく、“なんとか1%ポイントの上昇に止まっている”のである。その理由としては、季節的に、4−6月期の米国財政赤字が減少(財務省のネット市場借入れは1−3月期の1400億ドル超から400億ドル以下へ)したこと、さらに、日本の外貨準備運用において、ドル預金から米国債への振り替え(200億ドル弱と推計される)が行われたとみられること、を指摘できよう。


[4] 7−9月期は、米国長期金利水準に対して、より大きな上昇圧力がかかる可能性がある。季節的に財政赤字の規模が再び拡大する(700−800億ドルへ)とみられるからである。当局が4−6月期のようにドル預金を米国債に振り替えることにより、米国債市場がある程度サポートされる可能性はある。しかし、米国債への振り替えによってドル預金縮小が起こるのは事実であり、いずれにせよ、イールドカーブの短期ゾーンに負担がかかることは避けられないだろう。やはり、為替介入を復活できなければ、米国長期金利が急激に上昇するリスクはある。


[5] 日本に再び為替市場介入実施のチャンスが復活するかどうかは、米ドル相場の動きによる。1ドル101-102円まで円相場が上昇すれば、介入が可能になり、米国長期金利に対する上昇圧力が抑制される。焦点は、日米当局が、あらたな「ドル安合意」を打ち出せるか、である。個人的には、米国当局が、日本の景気ファンダメンタルズの良さと円相場の過小評価の可能性を強調し、日本がそれを黙って受け入れることで、介入の機会が生まれるというシナリオがあると考えている。


[6] 日本が為替介入を復活できず、米国長期金利に急激な上昇圧力がかかった場合、株式市場の大幅調整を避けたいFEDとしては、利上げ幅の縮小を決断せざるを得ないであろう。雇用統計やCPIのデータが改善を続けていても、労働生産性の中長期的な改善傾向による物価下押し圧力を強調することで、性急な利上げの必要性を否定するだろう。


[7] このように、米国債市場が崩れるリスクが顕現化すれば、米国金融政策の正常化が遅れることになる。さらに、それが市場主導型の米ドル下落をもたらせば、再び、為替介入が実施され、世界的な流動性の拡大が生じる。世界景気は減速ではなく、流動性にサポートされながら、再拡大へ向かう可能性も出てくる。いずれにせよ、米国債市場、為替相場の動きに大いに注目したい。


 

以 上
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