2004年07月27日

白川 浩道
日銀は来年初にかけて追加緩和へ


ポイント

 結論から言おう。日銀の次のアクションは量的緩和の追加(11−12月頃から来年3月にかけて)となるだろう。基本的には、短期国債購入を増加させる目的で当座預金ターゲットを積み増すことになるだろうが、中長期国債買い切りオペの増額も完全には否定できない(その際は、銀行券ルールの見直しも同時に行われるかもしれない)。さらには、新たな企業信用リスク補完措置が実施される可能性もある。

 日本国内では、CPI前年比の動きを神経質に眺めながら、量的緩和政策に関する出口論がまことしやかに議論されている。日本経済の先行きに対する強気見通しが依然として優勢なことも、出口論に拍車をかけている。しかし、海外、特に欧州では、量的緩和の出口論に対する関心は極めて低い。

 このギャップは、海外投資家(とりわけ欧州投資家)が、「金融政策運営のあるべき姿を財政政策との協調」といった枠組みで捉えているからに他ならない。「中長期的な財政再建とは全く相容れない条件(消費者物価<CPI>前年比の小幅プラス化)を以って、量的緩和政策の解除時期等を云々することは無駄である」というのが、彼らの主張である。筆者も同感である。


深刻な財政赤字問題

 日本経済が抱えている最大の問題は、政府の財政赤字が一向に縮小せず、公的債務残高が着実に増加していることである。特に懸念されるのは、資産バブル崩壊後の数度に亘る所得減税措置もあって、課税ベースの強化が殆ど進んでいないことである。昨年度の税収は、名目GDPが+0.7%とプラス成長になったにもかかわらず、43兆円強に止まり、02年度対比で数千億円の減収となった。景気が回復しているなどと言って、浮かれている場合ではない。

 バブル期のピークであった89年度、90年度には、名目GDPが前年度対比で平均30兆円程度拡大した。しかし、税収は4、5兆円しか増加しなかった。足元では、税収の名目GDPに対する弾性値がさらに低下している可能性が高く、名目GDPが7〜8%伸びても、税収は高々3〜4兆円しか増加しない可能性が十分にある。こうした課税ベースの弱さを露呈したのが、03年度の国税収入実績であったと言える。

 高齢化の進展による社会保障負担の持続的な拡大を考えれば、名目GDP成長率がたとえプラス7、8%となっても、中長期的に財政赤字額を減らすことは、極めて困難であろう。日本は、もはや景気回復による自然税収増によって財政赤字を解消することは不可能であり、政府債務の累積的な膨張を食い止めることも不可能なのである。数年後にはどうしても大型増税が必要になる、と考えざるを得ない。

 政府債務GDP比率の発散を回避し、家計や企業の国家財政に対するコンフィデンスの崩壊を防ぐために、政府は、少なくとも、プライマリーバランス赤字を解消しなくてはならない。プライマリーバランスの均衡を達成することは、政府債務残高の発散を防ぐための必要条件の1つであるからだ。このことは、将来、およそ20兆円規模の増税措置が必要となることを意味する。


資産バブル経済の再現が必要

 ここで、20兆円規模の増税は、個人所得税(課税最低限所得の引き上げ)と消費税の増税で行うことになるであろう。日本は、諸外国に比べて、対家計部門の課税ベースが弱いからである。

 20兆円規模の増税を対家計で実施し、個人消費の大幅縮小による大型不況を回避するためには、増税を実施するまでに、家計部門の所得規模を大きく拡大させておく必要があるだろう。家計が増税を手元の貯蓄の取り崩しでファイナンスする可能性は極めて低いからである。

 増税に先立って、家計所得を一時的に拡大させ、将来の増税に備えさせるとした場合、日本経済は再び80年代終り頃の資産バブル景気を繰り返す必要がある。80年代終りから90年代初のバブル景気の時期には、雇用者報酬が年間で10〜17兆円程度拡大した。こうした規模で数年に亘って雇用者報酬が拡大すれば、家計部門は20兆円程度の増税をなんとか吸収できると考えられる。

 このように、実体経済をソフト・ランディングさせながら、財政再建を断行するためには、バブル経済の再現が必要になる。言い換えれば、金融政策の責務は、バブル経済を再現させることなのである。


日銀の責務

 バブル経済を再現する場合、金融政策は、どのような物価・金融情勢を許容しなくてはならないであろうか。ポイントを示すと以下のようになる。


[1] バブル経済のピークにおけるCPI前年比のピークは3%強である。このことは、日銀が、再び、前年比3%程度のCPIを許容する必要性を示している。


[2] 資産バブル(株価・地価バブル)を再現するためには、長期金利水準の低位安定が必要である。より具体的に言えば、10年債利回りに代表される長期金利は名目GDP成長率を下回り続ける必要がある。今後1−2年の名目GDP成長率の伸びが平均でみて1%強であるとすれば、日銀は、当面、1.5%を上回るような10年債利回りを許容することはできない。


[3] 上記で論じたような長期金利の低位安定を維持するためには、日銀は、高いマネタリーベースの伸びを維持しなくてはならない。具体的には、市中における国債発行残高の伸びを上回るマネタリーベースの伸びを維持することで、国債市場における日銀のプレゼンスを拡大させて行かなくてはならない。市中国債発行残高の前年比伸び率が当面で9〜10%と見込まれることからすれば、マネタリーベースの前年比伸び率は10%以上を維持する必要がある。

 残念ながら、現状における金融政策運営は、上記のいずれとも整合的ではなく、バブル経済を再現させる方向にはない。従って、現状で判断する限り、数年後に実施される可能性が高い大型増税によって、日本経済は、再び深い景気後退局面に入る可能性が高い。


追加緩和のシナリオ

 しかし、そうであるからこそ、政府は、現在の引締め的な金融政策に修正を迫ることになる。追加的な金融緩和に対する圧力が再び大きく高まる局面がいずれ生じると読むのが筋であろう。

 政府は、世界景気の循環的なスローダウンがみえている中にあっても、05年度の予算編成における緊縮路線を堅持し、さらに、公的年金改革に絡んだ増税論議を加速するだろう。そうした財政健全化路線の強まりの下で、デフレ脱却に向けた、日銀と政府の政策運営一体化が改めて強調される可能性が高い。その際、CPI前年比のプラス化が遅れていること、マネタリーベース前年比の減速傾向が強まっていること、が問題視され、追加緩和必要論が一気に台頭するだろう。日銀は、ペイオフ全面解禁前のショック・アブソーバーの必要性を自ら認める形で、追加緩和を決定するであろう。


 

以 上
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