2004年09月30日

白川 浩道
高成長を阻害する3つの要因


 日本経済は03年度、04年度と2年度連続で3%を超える高成長を達成する見込みである(我々の04年度の実質GDP成長率見通し<3.7%>には下方リスクがあるが、3%成長の達成は可能であるとみられる)。しかし、こうした高成長が05年度以降にも持続する可能性は高くない。日本経済には、高成長を阻害する3つの要因が存在するからである。これら3つの阻害要因が消えることを展望できてこそ、日本経済の完全復活に自信を持てるのである。

1.製造業加工業種の価格決定力低迷

 第1の阻害要因は、製造業加工業種(最終財生産部門<注>)の価格決定力が、ここ2−3年、一段と低下したことである。
<注>一般機械、精密機械、電気機械、輸送機械の4大加工業種は、就業人口、付加価値生産の両方の基準でみて、製造業の4割を占めている。

 世界景気回復の下で、素原材料や中間財の価格が「循環的に」上昇しているが、最終財価格に十分反映されない状況が継続しており、交易条件の悪化が著しい(最終財生産部門の価格決定力の低下は、最終財価格・中間財価格比率の大幅な下落によって示される)。
 今後も、最終財価格への転嫁が困難であれば、製造業加工業種に対する合理化圧力は後退しない。これは、製造業雇用の趨勢的な減少や能力増強投資の回復の遅れ等を通じて、日本経済拡大の足かせになる。
 最終財価格への転嫁力が高まらないのは、加工業種の生産能力削減が不十分なためではない。業種別の生産能力指数をみると、98年以降の6年半で、4大加工業種の生産能力は12−13%削減されている。製造業平均が10%程度であるから、加工業種の生産能力削減は、むしろ素材業種に比べて進捗したと言える。
 従って、加工業種の価格決定力の遅れは、生産能力削減ペースの遅れに起因にしているというよりも、技術進歩を背景にしたアジア諸国等中進国の供給能力拡大によって、世界的な競争環境が悪化しているためとみられる。
 加工業種の競争環境の改善がもたらされるとすれば、それは、中国元を含むアジア通貨の切り上げであろう。米ドルが対アジア通貨で切り下げられれば、日本製品の価格引き上げがより容易になるだろう。
 しかし、アジア通貨のうち、日本円のみが対米ドルでの切り上げを免れることを想定することはできない。経常黒字の拡大傾向が続いていることからすれば、日本円も過小評価されている可能性が高く、通貨調整の対象から外れる可能性は低いからである。従って、最終製品の趨勢的な下落傾向にいつ歯止めがかかるのか、先行きは読めない。


2.サービス業の過剰雇用状態


 第2の問題点は、サービス業における過剰雇用の存在である。この結果、サービス業では、賃金下落圧力が本格化している。これは、最近の賃金統計で、サービス業の基本給下落幅が拡大していることで確認される。サービス業の基本給下落が継続すれば、個人所得・消費の回復が遅れるとともに、早期デフレ脱却も期待できなくなる。日本経済の高成長を阻害する要因と言えるだろう。
 製造業雇用の趨勢的な減少や経済のサービス化といった流れを反映して、サービス業は雇用の受け皿としての役割を負ってきた。この結果、民間サービス業の従事者は、1980年以降、およそ1000万人増加し、全就業者に占める比率は18%から30%にも上昇している。
 しかし、付加価値生産に占める民間サービス業のウェイトは、1980年以降、拡大はしているものの、そのペースは鈍い(名目でみた付加価値生産に占めるシェアは14%から20%に上昇)。サービス業では、製造業に比べて技術革新の伸びが低いこと、新商品の供給による需要掘り起こしが十分に行われてないこと、が背景にあるとみられる。
 こうした状況で、サービス業の賃金に下押し圧力がかかるのは当然である。経済におけるサービス需要が拡大し、付加価値生産におけるシェアが目立った上昇を示すまで、サービス業の賃金下落に歯止めはかからないだろう。
 サービス業の付加価値生産を高める方策がないわけではない。医療・介護サービス業への民間企業参入の促進などがその候補となるだろう。しかし、より本質的には、(鶏と卵の問題ではあるが)個人の所得環境が改善するとともに、余暇が拡大するようなことがない限り、選択的支出性の高いサービス支出が拡大することは想定できない。


3.財政赤字の存在とクラウディング・アウト


 賃金下落が継続する中で、個人所得の趨勢的な拡大を達成するには、資産インフレの再来が必要になる。資産インフレが再来し、金利水準がインフレ率に見合って上昇すれば、膨大な資産を抱える個人部門の金融・財産所得が拡大し、経済にプラスの循環が戻ってくるだろう。
 これまでも再三述べてきたが、日本経済再生の切り札は資産インフレをもう一度起こすことである。株価や地価の趨勢的な下落に歯止めをかけ、家計資産価値の縮小を止めることである。
 しかし、資産インフレ再来の最大のネックになるのが、膨大な財政赤字の存在である。膨大な財政赤字の存在は、国債市場が民間貯蓄を持続的に吸収していくことを意味している。その結果、他の資産市場には流動性が回らず、資産インフレは起こらない。
 誰かが国債ファイナンスを行い、クラウディング・アウトを回避することが必要であり、それは、どうしても日銀の役割とならざるを得ない。しかし、日銀が、国債購入をさらに拡大させる可能性は、現状では高くないとみられる。銀行券ルール’にとって替わる、新たな基準が見当たらないからである。
以 上
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