2004年10月14日

白川 浩道
外需鈍化、円高、製造業関連指標ピークアウトへ


 

 来年にかけての外需環境(輸出環境)悪化懸念が本格的に強まる局面に差しかかってきたといえよう。外需環境の悪化をもたらす要因は、米国製造業の利益環境悪化、為替介入完全停止による米国金融市場の流動性縮小、中国における金融・信用引き締め政策の持続的な拡大、である。

 こうした状況で、円高ショックのリスクに注意しなくてはならない。また、マクロ経済データでは、先行指標を中心にピークアウトを想定する必要がある。市場は、年末にかけて、製造業の業績悪化予想を織り込みに行かなくてはならないだろう。


1.外需の鈍化がより鮮明に

 10−12月期には、来年にかけての外需環境(輸出環境)悪化懸念が本格的に強まってくるものと予想される。原油高という不確定要素を除いて考えた場合、外需環境の悪化をもたらす背景は、基本的には3つほどある。

 第1には、米国製造業の利益環境の悪化である。米国では、製造業稼動率が低迷を続ける(8月は76.8%、1972年以降の長期平均80%)下で、素材価格の上昇が最終財価格に転嫁される比率は、依然として下落基調にある。このため、加工型製造業の利益環境は悪化している。
 実際、9月の製造業の雇用者は前月比で18,000人の減少(非農業部門全体では96,000人増)となり、5月以降、足踏み状態にある。今後は、利益環境悪化の下で、米国製造業雇用への下押し圧力が強まることが予想される。
 過去のデータをみる限り、雇用全体に占めるウェイトは小さいものの(11%)、製造業の雇用が雇用市場全体の動きを支配している。従って、米国の雇用情勢は、全体でみても、来年にかけ、循環的な調整局面入りとなる可能性が高い。

 第2には、日本の為替介入が完全停止したことによる、米国金融市場の流動性縮小である。日本の当局の米ドル買い介入は、4月以降、実施されていない。その副作用は、米国債市場の流動性減少と、これを背景とした悪い長期金利上昇(実質金利上昇)であろう。これが、米国株価の上昇を抑制し、資産効果の減退を通じて、米国景気の足枷になるものと想定される。

 10−12月期に、こうした為替介入停止の副作用がより強く意識されることになる理由は2つある。1つは、季節的な米国財政赤字の拡大である(米財務省市場借入額は、4−6月期300億ドル→7−9月期900億ドル→10−12月期1200億ドルと拡大する見込み)。

 もう1つは、外貨準備における預金から米国債への振り替えがそろそろ限界に来ているとみられることである。この点はややテククカルな点なので、若干、説明を付け加えておこう。まず、日本の米ドル買い介入は、去る1−3月期に膨大な規模に膨らんだことは記憶に新しい。1−3月期の為替介入額は実に15.2兆円であり、我々の推計では、このうち約10兆円が、直接的に米国債市場に流れ込んだものとみられる。これは、米国の財政赤字の約6割に相当する巨大なものであったが、介入規模全体に占める米国債投資は65−66%に過ぎず、これは過去の実績に比べれば低かった。つまり、日本の当局は、4月以降の為替介入停止を見越し、1−3月期に介入を拡大させた上で、一旦、その資金を外貨預金の形とし、それを4月以降、徐々に米国債に振り替えていくという方法をとってきた。

 面白いことに、外貨準備のデータをみると、外貨準備全体に占める証券運用の比率は、1−3月期には77%に低下したが、これが、足元9月には85%弱にまで大きく上昇している。4月以降、日本の為替当局は、予定どおり、外貨預金から米国債への振り替えを行ったのである。

 しかし、外貨準備における証券運用比率が、既に85%程度に上昇してしまったことから、今後、さらに、米国債運用への振り替えを行える余地は小さい。外貨準備における預金から米国債への振り替えがそろそろ限界に来ているわけで、この結果、米国長期金利が悪い上昇を示すリスクが高まっている。

 第3には、中国における金融・信用引き締め政策の持続的な拡大である。10月1日のG7会合では、米国が、人民元の早期フロート制移行を中国に強く迫った可能性が高い。アジアと米国の間の貿易不均衡が一向に改善していないからである。

 こうした中で、中国は、為替政策の早期自由化にコミットをせざるを得ない状況に追い込まれたと判断される。そして、中国当局は、為替政策の自由化を前に、国内の過剰投資問題、そこから派生する不良債権問題の解決を急ごうとするであろう。来年2月のG7会合に再び参加する可能性が高い中国は、金融・信用政策運営の引き締め度合いを強めるだろう。中国内需の減速懸念が再び頭をもたげてくるだろう。

 なぜ、中国が為替フロート制に移行せざるを得ないのか、という問題については、次のように考えれば良いだろう。

 実質的な対米ドル固定相場制の下では、当局が、絶えず、為替介入を実施しなくてはならず、これは、流動性拡大によるインフレ・リスクを高める。問題なのは、国内景気に対する配慮から金融引き締めを実現したい場合、為替介入の継続は、中央銀行に対して、必要以上の引き締め負担を迫るということである。しかし、思い切った利上げを実施すれば、投機資金の流入によって、ますます、元に上昇圧力がかかってしまう。つまり、世界の工場となった中国にとっては、実質固定相場制がすでに破綻しつつあると判断すべきなのである。


2.高まる円高リスク

 金融市場においては、円高ショックが生じる可能性が徐々に高まっていると言える。

 まず第1に、米国利上げ期待の更なる修正が起こる可能性が高い。雇用環境が、今後、循環的な調整局面に入ることが想定される以上、労働生産性の低下、ユニット・レイバー・コストの上昇によるインフレ圧力は高まらないだろう。大統領選までは、政治的に景況感の下方修正は行いにくいかもしれないが、FEDが11月10日のFOMCを最後に、利上げ打ち止めを表明する可能性が十分にあるだろう。

 第2に、利上げ打ち止めによるドル安が生じたとして、米国当局はそれを歓迎する可能性が高く、そうした中で、米国製造業からの圧力もあって、日本政府による為替介入再開を強く牽制するだろう。日本政府は、円相場が105円を割れ、103−104円になるまでは介入を見合わせるのではないか。

 第3に、日銀には、為替介入を積極的に非不胎化する意思が窺われない。特に、10月末の展望レポートにおいて、来年度の景気に対する楽観論を維持する可能性が高い以上、日銀が、年内に追加緩和(当座預金ターゲット増額)を決める可能性は依然として高くない。日銀が、アクションを起こすとすれば、やはり1−3月期であろう。追加緩和の条件としては、来年度の国債発行計画の下でTB発行額の大幅増大が確認され、日銀に対するTB購入圧力が高まること、政府がペイオフ解禁前の金融システム安定化対応を要請できる環境になること、の2点が重要であろう。

 第4に、中国為替制度自由化の議論が進むような局面が出てくれば、円相場の対米ドル切り上げ論が加速する可能性が高いとみられることである。アジア通貨は全般に米ドルに対して過小評価されている可能性が高いこと、を認識しなくてはならない。


3.製造業関連指標がピークアウトへ

 こうした中で、10−12月期には、先行指標、あるいは、企業の先行き期待を反映する指標を中心に、製造業関連データのピークアウトが生じてこよう。

 まず、製造業機械受注の悪化が一段と鮮明になってくるだろう。既に、8月の機械受注統計は、電気機械、鉄鋼業、化学工業からの発注がピークアウトした可能性が高いことを示している。今後、外需環境の悪化が視野に入ってくる中で、ウェイトの高い、一般機械や輸送機械で発注が鈍化してくるであろう。

 次に、製造業就業人口の前年比減少幅が拡大を始めるものとみられる。製造業の就業人口は、年初から8月までの平均では、前年比28万人の減少となっている(足元7、8月は、それぞれ、14万人、20万人の減少)。こうした製造業就業人口の縮小ペースは、実は、‘世界的好景気’に対応するものであり、現状では、製造業の雇用環境は‘かなり良い’と判断される。逆に言えば、外需の鈍化は、ほとんど織り込まれていない。従って、今後、製造業雇用の悪化(前年比30−40万人の減少へ)が見込まれる。

 最後に、循環性の強い中間財(鉄鋼、化学等の製品)の価格を中心に、企業物価指数のピークアウトが生じるものとみられる。実際、日銀9月短観の販売価格判断DIをみると、大企業製造業では、素材業種で2ポイント、加工業種では5ポイント、12月にかけて悪化する予想(物価上昇圧力が後退する予想)となっている。

 重要な点は、中国経済の拡大を受けて価格が前年比で大きくプラス化した、鉄鋼、非鉄、金属製品、化学といった素材業種で、軒並み価格判断DIのピークアウトが観察されたことである。実際の企業物価指数も10月、ないし、11月のデータで、ピークアウトを示すのではないか、と予想される。

以 上
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