2004年11月15日

白川 浩道
非不胎化為替介入の展望


 

 


1.今回の景気回復の構図=日米政策協調

 来年度の景気について、エコノミストの見解に大きな相違はない。足元のコンセンサスは、「景気は減速するが、後退はない」というものである。実質GDP成長率でみて2%程度の達成は可能であり、名目GDP成長率も2年度連続プラス成長の後にあってもマイナス成長は回避できる、という見方である。

 こうした見方の背景には、[1] 海外景気は堅調に推移する可能性が高い、[2] 政府・日銀の政策に大きな引き締めバイアスがかかる可能性は低い、[3] 企業・銀行のバランスシート健全化が大きく進捗した、[4] 在庫循環面からの調整圧力は小さい、といった前提があるものと推察される。

 確かに、これらの前提が全て成立すれば、景気が腰折れることなく、来年度も堅調な推移をするであろう。しかし、市場関係者とすれば、そうした前提の蓋然性を丹念にチェックしなくてはならない。特に、海外景気の持続性、それに大きな影響を与える日本の為替・金融政策運営が最大の関心事項となることを忘れてはならない。

 昨年から今年にかけての海外景気を支えてきた最大の要因は、「米国財政政策と日本の金融政策の協調」である。米国の減税政策を日本の非不胎化型為替介入が支えるという構図であった。日本は大幅な円高を回避しながら、実需面で米国景気回復の恩恵を大きく受けた。

 日本の景気が、こうした日米政策協調によって如何に支えられたかは、外需依存度の大幅上昇によって端的に示される。すなわち、純輸出のGDP比率は、実質ベースでみた場合、4−6月期には4.04%に達し、1984年10−12月期(4.09%)に次ぐ高い水準となった。1985年9月のプラザ合意直前が既往ピーク(4−6月期、4.32%)であるが、その水準と比べても遜色ない。


2.高まる円高リスク

 日米政策協調によって支えられた国内景気は、これまでのところ、なんとかワークしている。しかし、その持続性に保証はない。政策協調は対外不均衡の大幅拡大という副産物を生み、このため、為替市場でリ・アラインメント(円高・ドル安)が起こる確率が高まっているからである。

 来年度にかけて、どの程度の円高が生じる可能性があると考えておけば良いだろうか。この問に答えることは容易ではない。為替相場のファンダメンタルズを規定する要因にコンセンサスはないからである。

 ただ、いくつかの客観的な基準に基づいた場合、1ドル90円程度までの円高はあり得ない話ではないだろう。

 1つには、経常黒字と実質実効為替レートの関係からみると、1ドル110円程度の円相場は25〜30%割安である可能性がある(80円前後が妥当?)。第2には、日米生産者物価・企業物価指数の最終物価を用いたPPP(購買力平価)モデルに基づけば、円のフェア・バリューは95円程度であるとみられる。経常黒字のピークでは、フェア・バリュ−を5〜10%上回っても不思議ではないため、これを勘案すれば、円相場は85−90円が妥当になる。

 いずれにせよ、現在の円相場はかなり割安であるとみられ、二桁台への上昇を想定することは非合理的ではないだろう。


3.鍵を握る為替・金融政策

 日本経済には、円高→製造業雇用・設備投資の減退+輸入デフレ圧力増大→デフレ再燃懸念→個人消費縮小→景気後退、というスパイラルが再び生じる素地がある。

 ここで、実際に円高が生じるかどうかの鍵を握るのは、為替・金融政策、とくに金融政策である。すなわち、今後強まることが想定される円高圧力に対して、財務省・日銀が非不胎化為替介入で対抗するのかどうか、が最大のポイントとなる。過去の経験をみる限り、不胎化為替介入には円高抑止力がないからである。非不胎化為替介入(為替介入と量的緩和拡大のセット)の可能性は高いのか、低いのか?この点に関し、我々は、以下のように考えている。


  1. この結果、政府・日銀は、景気に対する強気見通しを、当面の間、堅持するだろう。こうした中で、12月上旬には、来年度の定率減税廃止が決まるだろう。

  2. 財政健全化路線断行の下では、政府は日銀に対する追加緩和要請を行いにくい。年内は、量的緩和の追加は望めない。従って、年内の非不胎化介入の可能性は極めて低い。

  3. 年明け後、一段と円高圧力が高まる可能性がある。2月初めのG7会合を控えて、中国元切り上げの話が盛り上がることも円高に拍車をかける可能性がある。市場は、日本の当局が100円を守る気があるのかどうか、テストしてくるだろう。

  4. こうした中で、日銀には、追加緩和圧力が高まるだろう。ペイオフ全面解禁前の流動性供給の必要性が強調され、日銀は2月中旬までに当座預金ターゲットの3−5兆円の増額に踏み切るであろう。

  5. ただ、その程度の当座預金ターゲット増額では、本格的な非不胎化介入の実施は望めない。非不胎化介入が実施される可能性はあるが、大規模なものにはならないだろう。円相場は介入の中にあっても、100円割れを継続するリスクがある。

  6. 市場は、年度末にかけ、来年度における円高デフレ再来のリスクを真剣に検討する必要性に迫られるだろう。

以 上
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