2004年11月30日

白川 浩道
外人投資家の日本経済観


 

 

 11月下旬に1週間ほど北米に出張し、マクロ系ヘッジ・ファンドを含め20強の投資家と意見交換を行ったが、そこで明らかになったことは、日本経済に対する「構造的なベア派」が再び増加しているということである。

 ここで言う「構造的なベア派」とは、例えば、世界的なハイテク需要のビジネス・サイクル等から短期的な景気調整局面を予想するという「循環的なベア派」と異なり、「日本経済はバブル崩壊後の低成長から抜け出せておらず、また今後も抜け出すことは困難ではないか」という、本質的な弱気派である。

 こうした「構造的ベア派」にとって現下の最大の関心事項は、日米における巨大な財政赤字の存在である。

 外人投資家には、依然として、「日本経済は外需依存度が高く、今回の景気回復も基本的には90年代半ば以降の過去の景気回復パターンと同様、外需回復によって主導されたものである」という意識が強い。

 こうした投資家の理解は、実際のところ、妥当である。一部には日本の内需回復を強調する向きもあるが、内需の対GDP比率の動きをみる限り、少なくとも7−9月期までは低迷が継続している。外需から内需への波及効果は明らかに低下している。特に、今回の景気回復局面では、企業設備投資の回復力の鈍さが際立っていることに注意しなくてはならない。これは、企業のデフレ懸念が払拭されていないこと、労働集約的な製造業における海外生産移転が継続していること、を素直に反映していると解釈すべきであろう。

 米国経済における双子の赤字は2つの意味において、日本経済に対する「構造的なベア派」を勢いづかせることになる。1つは、米国ではさらなる減税といった財政面からの景気刺激を行いにくい状況にあり、日本の輸出に対する実需を減少させる可能性が高いという点である。2つめは、米ドル相場の趨勢的な下落、すなわち円高によって、日本のデフレ圧力が再度強まる可能性が高いという見方である。

 重要な点として、これまでも繰り返し述べてきたように、日本円のファンダメンタルズが10−15%程度の円相場上昇を示唆していることである(我々は、円ドル相場のフェア・バリューは95円前後と考えている)。そのファンダメンタルズとは、リストラの進展、生産性の向上による日本の製造業の収益力向上である。簡単に言えば、輸出産業の円高耐久力が強まっているわけである。

 これは、一見好ましい事象のようにみえるかもしれないが、マクロ経済全体からみれば、そうではない。外需回復、円高ショックといった「循環」が繰り返し発生すれば、生産の海外移転や賃金の削減を中心とした、中長期的なデフレ圧力が消えないからである。また、円高によって輸入GDP比率が上昇することで、小売面でのデフレも再び進行する可能性が高い。

 米国景気減速と円高によるデフレ圧力が高まることに加えて、来年度の個人向け増税(定率減税廃止)が視野に入っていることも、日本経済弱気論の根拠となっている。米国投資家の共通見解は、「外需減速が予想されている事態にあっても政府が増税を断行しようとしていることは、日本の財政赤字問題が、もはや待ったなしの緊縮を求めるまでの段階に来ている」というものである。

 すなわち、待ったなしの財政健全化政策は、日本における構造問題(デフレ継続、税収不足、高齢化進展)の深刻化を端的に物語るもの、と受け止められているのだ。

 我々の推計によれば、仮に2005年度、2006年度の2年間で定率減税が廃止された場合、この10月からスタートした厚生年金保険料率の引き上げ等と合算した2005年度の個人所得増税は2.5兆円程度に達し、家計の可処分所得を0.9%も押し下げる。高齢化による家計貯蓄率の低下はある程度見込めるにせよ、増税によって個人消費が減速する事態は不可避であるとみられ、それを海外投資家が懸念することは合理的である。

 円高もあって外需、設備投資が減速し、増税によって個人消費が落ち込めば、2005年度の成長率は名目GDPベースでマイナスになる可能性が高い。この場合、企業利益について減収減益になるリスクがかなり高くなる。そうした状況において、外人投資家が日本株投資を増加させることにはかなりの勇気がいる。

 バリュエーションでみた割安感、世界的にみた日本株の出遅れ感、ベンチマーク対比でのアンダーウェイトなど、日本株投資を積極化できる材料はいくつか存在する。しかし、景気下押しのリスクが高まっている以上、外人投資家は迂闊には動けないのである。

 逆に言えば、日本の当局が円高を容認せず、財政健全化策を先送りするような政策対応を行えば、日本株への海外からの資金流入が再拡大する可能性があると言える。すなわち、日銀が量的緩和を追加するとともに、来年度における定率減税の縮小を見送った場合、日本の株価は上昇に転じる可能性がある。

 しかし、現状では、こうした可能性はあまり高くないと考えている。理由はいくつかある。

 第1には、国際的なポートフォリオのリバランスの中で、円高期待を背景にユーロ株から日本株に一時的に資金シフトが起こる可能性があるが、日本の当局はそれを日本経済に対する信認の復活として誤って受け取り、円高を容認する可能性が高い。

 第2には、第1のポイントのような「楽観論に基づいた政策の失敗」とはやや異なる次元で、当局が円高を受け入れる可能性がある。それは、対欧州での政治的な配慮である。日本を含めたアジア諸国が為替介入で米ドルを支え、他方で、外需の持続的な回復を狙うという政策は、世界的にみた場合、そろそろ限界に来ているのではないか、という見方である。

 第3には、増税による財政政策の健全化が必要であるという議論は政府内で根強い。その根拠は、増税をあまり先送りにして社会保障制度の維持可能性を損なうことは、むしろ消費者のコンフィデンスにマイナスではないか、という見方である。また、個人消費が相対的に堅調であるため、個人所得増税を必要以上に懸念すべきではないとの議論もある。

 従って、「政策の失敗」が繰り返される可能性はそれなりに高いのではないだろうか。円相場は向こう1ヶ月程度のうちに100円超(95−96円)まで上昇する可能性が十分にある。政府・日銀によるドル買い介入は101円前後から活発化するものとみられるが、日銀の追加緩和を伴う、いわゆる非不胎化為替介入が復活する可能性は低い。また、定率減税の段階的な廃止も60%の確率で年内に固まるだろう。弱気に徹する外人投資家のシナリオどおりの展開になる可能性が高い、ということである。

 

以 上
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