2004年12月24日

白川 浩道
来春にかけてのシナリオ


 

 

ポイント:
 国内最終需要の踏ん張り、デフレ脱却期待の一時的な盛り上がり、個人消費腰折れリスクの後退、米国金融政策のビバインド・ザ・カーブ、を背景に、来春にかけては、市場で再び日本経済楽観論が復活するだろう。重要なことは、依然として、世界的に流動性がだぶついていることである。一時的な日本経済楽観論復活の下で、円と日本株が狙い打ちされる可能性がある。短期的には、円高、株高を予想しなくてはならない。

 日本を含む、世界景気の方向性は、2006年に向かって「減速」であるというシナリオは不変である。肝に銘じなくてはならないことは、流動性に支えられた世界景気は足元では強く、将来に行けば行くほど弱くなる、ということである。

 

1.日本経済楽観論は一時的に復活へ
 景気は2002年春から始まった回復局面の最終段階にある。
 輸出、生産、企業利益の連鎖的な拡大は、今年7-9月期にピークアウトしたが、国内最終需要の回復は、少なくとも来春まで継続する見込みである。
 企業利益の回復に比べて出遅れていた企業設備投資は、年度末にかけて、最後の盛り上がりをみせるだろう。また、やや減速傾向にあった個人消費も、冬のボーナスの回復を受けて、短期的に盛り返す公算である。年末・年始の小売商戦は堅調なものとなる可能性が高い。
 そもそも、企業利益の改善が継続していたにもかかわらず、今年4-6月期、7-9月期と、2四半期連続でほぼゼロ成長となった日本経済の動きにはかなりの違和感がある。ハイテク部門の在庫調整が響いたというのが一般的な理解のようであるが、それだけで成長率の急減速を説明することはできないだろう。
 世界的な景気の回復局面では、日本の成長率も平均的にみて潜在成長率を幾分超える2%程度となるはずである。今年4-6月期、7-9月期のゼロ成長からの一時的なリバウンドは十分にあり得るシナリオである。実際、我々の推計によれば、今年10-12月期、来年1-3月期の平均実質GDP成長率は年率2.5-3%に達する見込みである。
 そうした中で、1-3月期には、消費者物価(生鮮食料品を除くベース)が、小幅ではあろうが、前年比でプラス化する可能性が高い。給料の下げ渋りや衣料品価格の堅調な推移が背景となるだろう。デフレ脱却論が息を吹き返す可能性が高い。
 さらに付け加えれば、特に外人投資家が強く懸念していた増税問題に関しては、定率減税の廃止が実質的に1年先送りされる形(同減税の縮減は2006年1月から)で決着した。従って、来年中における個人消費腰折れの確率は低下した。
 このため、株式市場では、日本経済に対する強気見通しが復活する可能性が高い。今年夏場以降に市場を支配していた「日本経済慎重論」は一時的に下火になるものと予想される。

 

2.世界的な投機資金は日本市場へ
 重要なことは、依然として、世界的に流動性がだぶついているということである。
 今年春にかけて世界の金融市場に大量の流動性を供給したのが日本の米ドル買い為替介入であったことに疑いの余地はない。
 その後は、中国の為替介入、そして、最近は、原油高を背景にオイルマネーが流動性供給の役割を担っている。また、本源的には、日本企業のリストラによるキャッシュ・フロー拡大も世界流動性の拡大に貢献している。
 こうした拡大する流動性を背景に、世界の投機資金は、これまで、国際商品、原油、ユーロ、そして新興市場国の株式などをターゲットとしてきた。我々の理解では、最後に彼らがターゲットとするのが、円と日本の株式である。
 円と日本株の大幅上昇がない限り、世界的な流動性相場の終りは来ないのではないか。上述したように、短期的にみた場合、日本経済に対する楽観論が復活する可能性が高い。そうした中で、投機資金は日本に向かってくるものと考えるのが合理的であろう。
 なお、円や日本株への投機資金のマグニチュードを測る場合、最も重要な指標は原油相場である。原油相場のピークアウトが鮮明になれば、それは、原油ロング・ポジションの修正を意味し、日本に振り向けられる資金量が拡大することを示唆する。

 

3.当局の対応
 問題は、投機による円高や株高に対して、日本の当局が応戦するか、どうかである。すなわち、1ドル=100円を超えるような円高が生じた場合、政府・日銀は為替介入に踏み切るのであろうか。さらに、為替介入の規模を拡大させる目的から、日銀が量的緩和の追加に踏み切るのであろうか。
 この問に答えるに当たっては、2つの観点からの考察が必要である。すなわち、円相場の適正水準はどの程度か、また、世界流動性の更なる拡大は是か非か、という2点である。
 まず、我々が用いている購買力平価モデル(日米生産者最終物価の比率と円ドル相場が整合的と仮定)に基づいた場合、円ドル相場のフェアバリュー(適正水準)は93-94円といったところである。従って、円ドル相場が100円を切ったからと言って、日本の当局が、すぐに、円相場が経済ファンダメンタルズから大きく乖離しているとは議論し得ない。
 次に、為替相場を実質実効為替相場という輸出競争力の指標からみた場合、現状では、ある程度の円高を容認することが必要ではないかと判断される。なぜなら、世界景気の循環的な回復の下で日本の経常黒字は大きく拡大してきたにもかかわらず、円の実質実効為替相場はほとんど上昇していないからである。円相場は貿易バスケットでみた場合、明らかに過小評価されている。
 こうした円の過小評価は、日本とユーロ圏の間の経済摩擦が増大するリスクを示唆している。実際、対米ドルでのユーロの高騰は円・ユーロ相場を下落させ、日本のユーロ圏への輸出拡大をもたらしている。円ドル相場を安定化させる為替介入を日本が継続することに対して、ユーロ圏は強く反発する可能性がある。
 第2の世界流動性の問題はより深刻な問題である。今年3月、米国FRBのグリーンスパン議長は、日本の為替介入と量的金融緩和に対して公然と不快感を表し、それが市場の話題となったことは記憶に新しい。
 同議長批判の主旨は、「日本の為替介入を通じた流動性供給が世界的な投機的インフレのリスクを高める」というものであったと解釈される。実際、原油価格やその他の商品価格の上昇に、日本の為替介入資金が影響を与えた可能性は高い。日本の当局が為替介入の復活に踏み切った場合、世界的に同種の批判が再燃する可能性はかなりある。
 日本の米ドル買い為替介入については、その多くが米国債で運用されている。従って、日本の米ドル買い為替介入は米国財政赤字のファイナンスには少なからず貢献する。しかし、米国における長期金利の低位安定状態と投資超過状態を長引かせることから、将来的には、米ドル相場ないしは米国債相場の暴落という世界経済の波乱要因を増大させる。
 以上のように考えてくると、円と日本の株式市場が、世界的な投機の対象になり、急劇な円高が生じても、日本の当局は簡単には為替介入には動けないとみられる。

 

4.投機的円高、株高で今回の流動性景気は終息へ
 このように、来年初から春にかけて、円高、株高の展開となることが予想されるわけであるが、そうした中で、長期金利はかなり上昇することになるであろう。為替介入が腰の入ったものにはならず、日銀による量的緩和の追加がないとなれば、債券市場の流動性は低下すると考えられるからである。
 日本経済楽観論の復活と投機的な円高、株高の後に来るものは何であろうか。その答えは、残念ながら、景気悲観論再燃と株価、円相場の下落であろう。当然のことながら、長期金利は再び低下するだろう。春にかけての、投機による株高局面が景気拡大のクライマックスなのである。
 我々の現在の予想では、来年4-6月期から2006年前半にかけて、国内景気は、再び潜在成長率を下回る低成長となる可能性が高い。特に、来年後半は再びゼロ成長を経験することになるだろう。そうした中で、株価は、基本的に、下落基調を辿るものとみられる。
 その最大の理由は、世界経済の減速である。特に、米国については、マクロ経済政策の引き締め転換による雇用環境の悪化を主因に、来年後半に景気調整圧力が強まるものと予想される。
 米国では、長期金利の低位安定が継続していることを受けて、不動産価格の上昇が止まらず、資産インフレ圧力は高まるばかりである。こうした状況で、米国の家計貯蓄率はゼロ%すれすれにまで低下、さらに、経常赤字は歴史的にみた最高水準を維持している。
 米国では、マクロ経済政策を緊縮的に運営し、国内貯蓄を促進する必要性に迫られている。低金利政策と積極的な財政政策をこれ以上継続させると、米国の対外借入れ依存度が加速度的に上昇し、その結果、米ドル相場や米国債券相場の大幅下落が生じかねない状況にあるからである。
 重要なことは、ユーロの準備通貨としての地位が向上している状況では、米国当局は、ドルの信認向上を目的に、ある程度、国内景気の減速を容認せざるを得ないということだ。
 米国では、財政政策では緊縮型予算の編成が志向されるとともに、来年央までに思い切った利上げが行われる可能性が高いと読むべきである。米国経済の転換がみえてくる中で、日本経済のファンダメンタルズも悪化することが予想される。

 

以 上
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