2005年03月01日

白川 浩道
新たな円高の流れ?



 足元で、円高圧力が再び強まっている。米ドルの「構造問題」が、市場で改めて注目されているからである。「構造問題」とは、米国金融政策のビハインド・ザ・カーブ(インフレ圧力の放置と引き締めの遅れ)と、世界的なドル離れ懸念の2点に集約される。しかし、米国は、こうした「構造問題」を放置しないだろう。ドル基軸通貨体制の維持を目的に、ドルの信認回復を目指すだろう。米国FRBは、近いうちに、「慎重な利上げ」から離脱するものと予想され、その結果、米国経済の減速懸念が強まるだろう。短期的には円高基調が継続する可能性があるが、長続きはしまい。


 2月10日頃を境に、再び、ドル安圧力が強まりつつあるように窺われる。ユーロは1.28割れから1.32超えまで上昇した。円相場は、やや出遅れたが、足元で上昇し、105円台半ばの水準から104円前半にまで増価した。


 足元における新たなドル安基調については、為替市場において米ドルに対する信認がなかなか回復しない、という「構造問題」の存在が大きいと解釈すべきであろう。米国政府は、2月初めのロンドンG7会合では、為替市場への言及を回避する一方、財政健全化姿勢を明確にすることで、ドル相場の一段の下落に後ろ向きなスタンスを取った。しかし、そうした米国の姿勢は、ドルの信認を回復するのに不十分であったわけである。


 米ドルの「構造問題」とは、[1]米国におけるインフレ圧力の高まり(それを十分に抑制できていない米国FRBの金融政策のビハインド・ザ・カーブ)、[2]中長期的な米国経済不信を背景とした世界的なドル離れ懸念、の2点に集約されると考えられる。[1]は短期的な要因であり、[2]はより中長期的な要因である。


 筆者の個人的な見解では、米国の金融政策は、今まさに正念場に立たされている。労働生産性神話が崩壊し、賃金コスト上昇圧力が強まっていることに加えて、最近の原油相場の反転上昇も新たなインフレ圧力を生んでいる。他方で、インフレ圧力の抑制に軸足を置きすぎると不動産市場の崩壊や個人消費の急減速を招く可能性がある。そうであるからこそ、消去法として「緩やかな利上げ」を継続させる姿勢を維持しているが、その結果、インフレ圧力の抑制が不十分に終わるリスクもある。これが、米国FRBの置かれている状況であるとみられるが、結局のところ、市場は、不動産バブルを崩壊させたくてもさせられないFRBの足元をみているのではないだろうか。これが上記の[1]である。


 そして、上記[2]の問題は、[1]の延長線上にある。米国経済は、ITバブルの崩壊による景気調整を浅くするために、住宅バブルを許容してきた。資産バブルに支えられた景気が長期に亘って維持可能ではないことは歴史が証明するところである。それにもかかわらず、米国当局は、可能な限り長く、資産バブルを継続させようとしている。その帰結は、インフレ圧力の急劇な高まりと経済のハードランディングではないか。これが、世界にある米国経済悲観論の骨子である。


 欧州、中東、ロシアなどの諸国が、どこまでこうした米国経済悲観論に与しているのか、明らかではない。しかし、米国経済のこうした帰結をある程度の確率で予想した場合、リスク・ヘッジとして、外貨準備における米ドル運用比率を低下させることは合理的である。近い将来ではないだろうが、ロシアに続き、中国も、通貨バスケット・ペッグ制を考慮する可能性がある。そうなれば、中国の外準におけるドル運用のウェイトも大きく低下する。為替市場のプレイヤーが、世界的なドル離れのリスクを気にしなくてはならない時代が到来したと言える。


 米国は、こうした米ドルの「構造問題」を是正する気があるのであろうか。答えは、恐らくイエスであろう。米国は、ドル基軸通貨体制の崩壊を容易には許容できない。最大の問題は、対外赤字ファイナンスが支障を来たすリスクであり、その結果としての、金利上昇・国内景気低迷である。従って、米国は、従来にも増して「構造問題」の是正に真剣に取り組むであろう。


 そうした観点から、我々とすれば、米国の金融政策が向こう2−3ヶ月のうちに「ビハインド・ザ・カーブ」を抜け出し、ある程度、思い切った引き締めに出てくることを予想しなくてはならない。そして、その結果、米国不動産市場が調整し、個人貯蓄率が上昇するとともに、景気の鈍化が生じることを想定すべきであろう。米国は、ドル基軸通貨体制を長期的に維持するために、短期的には、国内景気の調整を許容せざるを得ないと考えるのが妥当であろう。


 筆者は、円高圧力が継続しても、それは、向こう1−2ヶ月に限られると予想する。株式市場が、日本の1−3月期のGDP成長率リバウンドを織り込み切った時が、円相場のピーク(瞬間的に100円程度)であろう。それは、4月中旬までに訪れると予想する。

 

以 上
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