2005年03月22日

白川 浩道
2005年度も1%台後半の成長へ



 日本経済は、株価バブル崩壊から立ち直る間もなく、1990年代半ば以降、円高ショック、アジア通貨危機、世界的なITバブルの崩壊等、いくつかの不幸なショックを経験した。金融不安にも巻き込まれ、デフレ・スパイラル入りが目前に迫るほど、経済は疲弊した。しかし、政府・日銀による多方面にわたる介入政策が奏功し、2002年以降、景気は安定性を取り戻した。特に、昨年春にかけて実施された米ドル買い為替介入は世界的な流動性の大幅な拡大を通じて、日本経済の成長を助けた。また、デフレ・スパイラルのリスクが高まる中で、企業が合理化努力を加速させてきた結果、高利益構造が構築された。


 その一方で、日本経済が「インフレ的な再拡大」を達成する姿を描くことはまだできない。持続的な成長の基礎となる「インフレ」はディマンド・プル型の良い「インフレ」である。昨年にみられたような、コスト・プッシュ型の素材インフレは悪い「インフレ」であり、日本経済を完全復活させるわけではないだろう。良い「インフレ」に対する最大の敵は政府赤字の肥大化と、それに対抗するための財政緊縮である。財政再建の道筋がみえてくるまで、持続的高成長の議論はお預けである。


 もっとも、2005年度の景気も堅調なものとなる可能性が高い。2005年度の実質GDP成長率は1.7%と、2004年度並みを予想する。従来、我々は、2005年度の成長率は1%すれすれにまで減速するという見通しを立てていた。今春以降、景気が調整的な局面に入ると考えていたからである。しかし、そうした見通しはやや悲観的に過ぎたようである。景気は夏場までそこそこ堅調なものとなり、また秋以降の調整も想定に比べれば浅いものになる可能性が高い。


 第1には、外需のモメンタムが失われていない。米国経済や中国経済は、年初から再び加速する様相にある。世界的に流動性が潤沢であり、投資活動の減速が明確には生じていない。第2に、国内では、昨年秋以降、賃金や雇用の改善傾向が定着してきている。個人所得の環境は、足元において、当初想定よりも改善しており、個人消費の上方修正が妥当な状況になった。すなわち、常用雇用は堅調に推移し、また、昨秋以降、現金給与総額の回復にもモメンタムがついてきた。企業から個人に所得が移転されつつある。所得環境が持続的に改善してきたことで、消費者のセンチメントは、輸出環境の大幅な悪化が生じなければ、来年1月からの定率減税縮小が視野に入り始めるまで回復を続けるだろう。このため、個人消費は、夏場にかけてこれまでの想定以上に盛り返す可能性が高い。このため、2005年前半の実質成長率は平均年率で3%程度になるものと予想する。


 しかし、2005年後半から2006年前半にかけて、景気は循環的に鈍化するであろう。同1年間における平均成長率は平均年率で1%に満たない予想である。2006年前半まで景気鈍化局面が伸びる見通しにあり、このため、2006年度の成長率見通しは1.5%と、2005年度から鈍化する見込みである。


 2005年後半以降、景気を下押しするのは、マクロでみた企業利益環境の悪化である。背景は3つある。1つは、世界経済の鈍化である。2つめは、素材インフレの継続による価格マージンの悪化である。3つめは、労働生産性の低下と賃金コストの増大である。


 特に重要なのは、第3の点である。足元における人件費の増大については、それが景気の持続的な拡大に繋がらない限り、企業にとっては収益圧迫要因となる。外需の減速と2006年1月からの定率減税縮減は、景気の持続的拡大を阻むだろう。そして、多くの企業が、再び合理化モードを強めざるを得なくなるものと予想される。


 問題なのは、最近の人件費の増大が、日本企業の景気の先行き見通しに対する楽観的な姿勢を反映したものでは必ずしもないと考えられることである。高齢化の進展、若年労働者の意欲減退、産業構造改革の遅れによる実質的な遊休労働者の滞留等の問題が、ベビーブーマー世代の退職年齢接近とあいまって、企業に後ろ向きの雇用増大や賃金支払い増を迫っている可能性が高いことに注意しなくてはならない。


 なお、物価下押し圧力は簡単には後退しないであろう。経済における需給ギャップ(超過供給状態)は依然として高水準であるからだ。消費者物価(生鮮食品を除く)の前年比が2005年度中に安定的にプラス化するシナリオは描けない。足元における賃金の上昇は、物価押し上げ要因ではあるが、固定電話料・電力料金の引下げや、趨勢的な円高による輸入物価下落が消費者物価のプラス化を阻むことになるだろう。


 最後に、金融・財政政策に関する見通しは基本的に変わらない。日銀による量的緩和政策縮小の開始は来年半ばを予想し、定率減税の廃止は2007年度末と想定する。しかし、リスクは、早期の量的緩和縮小と2006年度の増税拡大である。

 

以 上
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