2000年09月20日

白川 浩道
追加利上げを軽々に論じるべきではない
 ゼロ金利解除後の金融政策を読むに当たっては、今後景気が来年度にかけてどのようなパスを描くと考えるのか、にかかっている。ごく大雑把な議論をすれば、景気が来年度にかけて加速気味に推移するとの見通しに立てば、来年の半ばまでには0.5%程度の追加利上げが行われても不思議ではないことになる一方、景気が来年度に再び鈍化するとの見方をすれば、「追加利上げの可能性は今後1年以上を展望しても極めて限定的」、ということになる。個人的には、以下の理由から、来年度は「再び景気が鈍化する」と考えており、このため、「追加利上げの可能性は来年一杯を考えても低い」とみている。

  1. リストラが相対的に遅れている非製造業を中心に、企業リストラが最終章を迎える。労働分配率の構造的な高止まりは実質賃金が調整される必要があることを示しており、最終物価が上昇しないと考える以上、名目賃金が調整せざるを得ない。個人消費は来年度に顕著にスローダウンしよう。
  2. 赤字財政政策の継続も景気下押し圧力となる。将来の増税懸念が貯蓄率の上昇圧力として作用するほか、実質長期金利の高止まり(財政リスク・プレミアムの拡大)が、IT関連以外の循環的な設備投資に対して抑制的な効果を持つ。
  3. 米国経済は巨額の対外赤字を抱えている。国内民間部門の過小貯蓄を解消するためには、金融当局は実質金利の引き上げを行わざるを得まい。米国景気は来年度にかけてかなりの減速を余儀なくされよう。米国株価はファンダメンタルズ面から調整局面入りするが、この結果、ドルには下押し圧力がかかる展開が予想される。円が軟調に推移する可能性は来年半ばまで想定しにくい。


 さて、このような経済シナリオに対応する、望ましい「マクロ政策のポリシー・ミックス」は何か。言い換えれば、「実質長期金利を低下させ、為替相場を軟化させるとともに、株価をサポートする」政策運営とはどのようなものであろうか。明らかに財政政策による追加的な需要創出策ではない。なぜなら、追加的な財政支出が実質金利上昇圧力をもたらすことは明らかであるからだ。むしろ、「財政政策を引き締める」とともに、「金融政策面では緩和的なスタンスを維持する」ことこそ、望ましい政策ミックスではないか。

 政策当局が、自ら、ここで述べたような「望ましいポリシー・ミックス」にシフトしていく可能性はあるであろうか。財政政策について言えば、やはりポイントは来年の参院選である。このまま放漫財政を続け、将来の財政破綻シナリオを煽り続けることは、与党にとってもはや取り得ない政策オプションではないか。少しくらい景気が回復しても、現状10兆円以上もあるプライマリー・バランスの赤字が縮小する見込みはなく、公的債務残高のGDP比率は発散する確率が着実に高まっている。粘りに粘ってドラスティックな「増税と歳出削減」を実施するより、適当なペースでブレーキを踏み始めると考えるのが自然であろう。財政政策は来年度から、「補正予算の編成なし」という形で緩やかな引き締めに転化する可能性が十分にある。

 金融政策はどうであろうか。望ましいポリシーミックスを意識していくのであろうか。答えはイエスである。中央銀行にとって、財政政策運営が硬直的になされていることは、極めて不適当な状態である。景気が加速してきた場合、必要以上に金融を引締めなくてはならなくなる可能性がある一方、景気が減速してきた場合には、財政政策によるプレミアムの存在で、今度は逆に必要以上の金融緩和を迫られるためである。財政政策が中立的に運営されていれば、金融政策の運営は遥かに自由度が高まるのである。ここで重要な点は、日銀として、規律ある財政運営を今後真剣に働きかけていかないと、結局は自分たちの負担が高まるということである。簡単に言えば、放漫財政を容認し続ければ、「財政赤字のマネタイゼーション」のリスクが高まるだけなのである。そのリスクを日銀が避けたいと考えるならば、「財政政策はより規律を持って運営されるべきであり、金融政策はそうした財政正常化の下で緩和基調を続ける」との発想が日銀自身から出てきて当然であろう。

 景気の鈍化傾向が鮮明になる来年の夏場以降には、マクロの経済政策は、「財政政策の緊縮化」、「金融政策の緩和基調維持」といった形をはっきりと示し始めるものとみている。その意味では、金融政策が段階的に引締められるという見方を軽々に論じるべきではなそうである。

以 上  
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