2005年06月30日

白川 浩道
早期の踊り場脱却論には疑問



 早期の景気踊り場脱却論は警戒すべきである。


 輸出の前年比伸び率は、昨年半ばをピークに明らかに減速している。鉄鋼や一部化学製品は引き続き高水準の伸びを維持しているが、PC、AV機器、電子部品などはマイナス成長となっているほか、自動車部品も減速傾向が鮮明になっている。また、機械受注の外需も、昨年春以降、伸び率が鈍化しており、資本財輸出の目立った回復は予想できない状態にある。


 輸出減速の下で、企業売上の成長率は明らかに鈍化しているとみられるが、他方で、昨年来の世界的な素材インフレや原油価格高騰による投入物価の上昇が継続しており、交易条件は悪化を継続させている。このため、企業の粗利益には大きな下押し圧力がかかりつつある。


 交易条件は、製造業の経常利益に1年程度先行する。昨年半ばにかけての交易条件の大幅な悪化を受けて、足元の4−6月期、7−9月期には、製造業の経常利益の伸び率が大幅に鈍化する可能性が高い。最近における交易条件と製造業経常利益の相関関係を前提とすれば、4−6月期、7−9月期の製造業経常利益は前年度比で5−7%の減益になるだろう。また、外需減速による利益の鈍化局面では、製造業と非製造業の利益の相関が高く、非製造業の経常利益成長率も鈍化することが見込まれる。


 重要なことは、利益環境が悪化している中にあっても、人件費が当面は増加する可能性が高いことである。実際、法人企業統計の全産業ベースでみた場合、人件費は企業利益(経常利益)に3−4四半期も遅行する。このため、人件費は足元の7−9月期にかけて回復基調を維持する可能性が高く、こうした人件費の回復基調が、投入価格上昇と相まって企業利益の下押し圧力を強めるものと予想される。4−6月期の企業業績の発表ではネガティブ・サプライズが相次ぐリスクを無視できない。


 企業利益の減少は、早晩、企業設備投資の減速となって顕現化するだろう。4月の機械受注は製造業を中心に予想外に堅調になったが、5、6月のデータは大きく下振れると読むべきである。企業設備投資は、10−12月期にかけて、調整色を強める公算である。


 また、利益循環に加えて、ハイテク部門の在庫・生産循環からも、景気が早期に踊り場を脱却する可能性は低い。


 電子部品・デバイス部門の出荷をみると、足元では調整圧力が強まっており、この結果、在庫率が上昇傾向にある。最新の5月の鉱工業生産統計によれば、同部門の在庫率は2ヶ月連続の大幅上昇(4.5ポイント増)となった。同在庫率が生産に3−4ヶ月先行することからすれば、「電子部品・デバイス部門の生産が新たな回復過程に入るのは早くて10−12月期である」と読むべきであろう。マクロの景気はハイテク部門の生産に1−2四半期遅行する傾向があるとすれば、年内の景気は、製造業を中心に弱含む展開になる可能性が極めて高いのである。踊り場脱却を確信するための重要な条件は、電子部品・デバイスといったハイテクの川上部門における出荷の回復であり、それが確認される前に、踊り場脱却を予想するのは無理がある。


 なお、足元では、個人消費が堅調である。そして、そうした堅調な地合いは、夏場までは継続するだろう。上記で指摘したように、人件費が7−9月期まではなんとか回復基調を辿ると予想され、このため、個人の所得環境も7−9月期までは回復傾向を続けるとみられるからである。


 しかし、こうした個人消費の回復は、生産や企業利益の循環に対する人件費の遅行性を反映したものである。2002年央から始まった循環的な景気回復の最終局面として個人消費の回復が顕現化しているとみた方が良いだろう。過去と同様の循環パターンを想定した場合、人件費は10−12月期から来年央にかけて調整局面を迎える可能性が高い。このため、個人消費も秋口から減速し、来春にかけて、調整局面に入る公算にある。


 個人消費の回復をあたかも日本経済の救世主のように議論するのは誤りであり、また、個人消費主導型の景気回復や踊り場脱却を論じるのも妥当とは言えないのである。

 

以 上
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