2005年07月15日

白川 浩道
国内景気は加速する



 前回のニュースレター(6月30日付け、早期の踊り場脱却論には疑問)では、輸出の減速傾向、企業の利益環境の悪化、ハイテク部門の在庫調整の遅れ、など、日本経済を取り巻く環境は厳しく、景気が早期に再浮上するのは難しいと指摘した。


 しかし、その後に出てきたマクロ経済データは、こうした景気悲観論が誤りである可能性が高いことを示唆している。特に重要なことは、企業の景況感が、在庫や利益の循環が示唆するような景気の下押し圧力を無視する形で上向いてきていることである。短期の景気循環論で、年後半の景気減速を予測することは妥当ではなく、私のこれまでの見方が誤っていた可能性が高いことを認めざるを得ない。


 すなわち、最近のマクロデータにおける最大のポジティブ・サプライズは6月の日銀短観における05年度設備投資計画の大幅上方修正である。具体的に言うと、05年度の設備投資計画は、3月調査の−2.2%から6月調査では+5.4%に上方修正された。6月短観における、こうした設備投資計画の大幅上方修正は、過去2年度(03−04年度)とは明らかに異なるパターンである一方、1988−90年度といったバブル期の終盤にみられた傾向に酷似している。


 こうしたバブル期終盤にみられたような、6月日銀短観における設備投資計画の大幅上方修正の背景は、非製造業企業における投資スタンスの前傾化である。非製造業では、3月短観の−3.4%から+2.9%に上方修正されたが、この動きがバブル期に匹敵する。業種としては、不動産、運輸、情報通信、電気・ガス、で上方修正が顕著である。全設備投資の約3分の2を占める非製造業において、急劇な企業設備投資計画の上方修正が行われていることは、特筆に値する。なお、製造業についても、好調な伸びとなった03−04年度と同様のパターンで設備投資の上方修正が行われている。業種別には、石油・石炭製品、鉄鋼、非鉄金属、輸送機械で、設備投資計画の上方修正が著しい。


 指摘しておかなければならないことは、過去のデータをみる限り、6月時点において今回にみられたような大幅な設備投資計画の上方修正が行われたのは、88−90年度の3年度しかなく、その場合には、9月、12月の調査において、更なる上方修正が行われた、ということである。


 確率論の問題であるが、今回の短観からは、[1]05年度の設備投資計画は今後さらに上方修正される可能性が高い、[2]国内個人消費が足元堅調に推移していることからすれば、更なる上方修正の主役は、小売やサービス業になる可能性が高い、[3]05年度の名目設備投資は二桁成長を達成する可能性すらある、といった点が示唆される。なお、短観の設備投資とGDPの設備投資のズレはそう大きくない。


 いずれにせよ、6月日銀短観は、企業の投資意欲が、バブル期のピーク時並みに高まっていることを示唆している。何が企業の設備投資意欲をここまで駆り立てているのであろうか。


 明らかなことであるが、日本経済のファンダメンタルズがバブル期並みに改善したわけではない。そうした状況は、企業の業況判断の改善が鈍いことに如実に反映されている。88年度から90年度における日銀短観の業況判断DI(全産業全規模ベース)の平均は+35である。足元の6月短観では同DIは+1に止まっており、業況判断の格差は大きい。


 従って、企業が設備投資に前向きになっていることを説明する、ほぼ唯一の仮説は、キャッシュ・フローの拡大であると考えるべきであろう。合理化努力や生産性向上によって利益を蓄積してきた企業は、債務リストラに目処が立ったこともあり、ついに、設備投資の積み増しに踏み切りつつあると考えざるを得ない。株主からの圧力も、企業の資金使途として設備投資を後押しする方向に働いている可能性が高い。企業は、蓄積した手元資金を、ついに設備投資に回すことを決断したと言える。


 ハイテク部門を中心にした在庫循環を重視し、景気が依然として踊り場にあるとの見方をすることには無理がある。景気は既に踊り場を脱却しているとみるべきであろう。
05年度の景気は加速するだろう。05年度の実質GDP成長率は3%程度(04年度は1.9%)に到達するものと予想する。

 

以 上
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