2005年08月25日

白川 浩道
財政再建はインフレで



 

 自民党、民主党両党のマニフェストが明らかになったことを機に、財政再建シナリオにおける両党の違いを浮き彫りにしておきたい。


「増税自民」

 自民党の財政再建に関する考え方の基本は、増税である。「増税ありき」であり、歳出削減は二の次である。小泉政権が財務省にいかに近いかを端的に示す、政策の基本中の基本、と評価される。

 自民党の「増税ありき」的な考え方は、日本の税制、とくに所得税制が大きく歪んでいるという、財務省の判断に大きく影響されている。財務省が長くキャンペーンしてきたように、日本は諸外国に比べて個人所得税収のGDP比率が低く、これが税収増加の大きな阻害要因になってきた、という見方である。各種の税控除を縮小し、所得税の実効税率を引き挙げようとする戦略である。

 自民党は、こうした理論的には正しくとも、選挙対策上はとりにくい、「サラリーマン増税」に対しては、マニフェストで、とりあえず、「ノー」を突きつけた。しかし、その一方で、定率減税の廃止に関しては何も触れていないほか、07年度を目処に消費税を含む税の抜本的な改革を行うこととしている。すなわち、「サラリーマン増税」を先送りとするものの、定率減税廃止と消費税増税は断行する、という可能性が高い。

 まず、定率減税については、2006年1月から半減、2007年1月に廃止、というのが、現状の政府のシナリオであろう。この結果、2006年暦年、2007年暦年の2年間について、それぞれ、1.7兆円(家計の可処分所得の約0.6%)の増税(06年度1.7兆円、07年度1.2兆円)が行われることになる。

 次に、消費税であるが、これについては、[1]2007年4月、2008年4月のいずれかに実施される方向性にあるが、現状では、2007年夏に参院選が予定されている関係から、50%、50%であり、決め手はない、[2]消費税率の引き上げ幅は、3%と5%の2つのケースをみておく必要があるが、増税が08年まで後ズレした場合は、5%の可能性が高まるであろう。消費税率5%引き上げによって、家計の可処分所得は、3%強も縮小することになる。

 自民党の増税志向の強さは、歳出削減志向の弱さの裏返しで、あると考えるべきであろう。[1]公務員や公的部門の人件費削減について数値目標を設置しなかったこと、[2]新たな高齢者医療制度の創設を掲げたこと、[3]年金制度改革については、制度簡素化は主張しているものの、給付削減に関する踏み込みがみられないほか、基礎年金国庫負担割合の2分の1への引き上げ論(増税要因)を踏襲していること、など、がその典型である。

 このように、自民党の財政再建の基本は増税である。大きな政府を維持しつつ、増税によって将来負担を賄おうとする面が強いと判断される。従って、増税路線が頓挫した場合には、金融政策による調整インフレ策導入に頼らざるを得なくなるであろう。


「歳出カット」民主

 他方で、民主党の財政再建に関する姿勢は、「歳出削減」が基本である。無駄な歳出を08年度にかけて徹底的に削減した後に、09年度に年金目的税として、新たな消費税を導入する(実際には、消費税率引き上げ)というものである。自民党が「大きな政府」を志向する一方、民主党は、より「小さな政府」を志向しようとしている。

 ただし、民主党の歳出削減案については、やや具体性に欠ける面があるほか、実現可能性が疑問視される、という問題もある。

 具体的には、[1]年金保険料の流用を是正することで、基礎年金の財源を手当てするとしているが、流用の規模などに具体的な言及がない、[2]公務員人件費を3年間で2割削減するというが、実際に可能なのか、[3]年金保険料の上限を15%に抑えるとしているが、年金支出の削減の具体的なプランはあるのか、[4]年金目的消費税は3%で導入しているとしているが、さらなる増税は回避できるのか、などの問題がある。

 現状の民主党案でいけば、定率減税廃止以上の増税は、09年度までないことになる。しかも、大きな政府を志向する自民党に比べて、相対的には、小さいな増税によって、財政再建を達成できるかもしれない。

 しかし、自民党が増税策に頓挫する可能性と同様、民主党の歳出削減策が頓挫する可能性も十分にある。この場合には、やはり、金融政策による調整インフレ策導入に頼らざるを得なくなるのではないか。


インフレ容認がベスト?

 財政再建を、増税、歳出カット、調整インフレ、のいずれによって達成するのかは、結局のところ、国民の選択の問題である。

 調整インフレには、資産バブルの再来、所得格差の拡大、非効率な公的部門の温存、技術革新モメンタムの低下、などのコストを伴う。しかし、財政赤字の膨張が次世代の可処分所得を蝕むという不幸は回避することができる。また、インフレ容認によって、景気を本格的に回復させることができれば、歳出削減や公的部門縮減はよりスムームに実施できるはずである。

 筆者は、団塊世代の退職に注目している。団塊世代は2007年に退職年齢の60歳に到達するが、この結果、労働供給が減って、完全失業率は驚くほど低下する可能性がある。労働市場の需給が大きくタイト化し、賃金インフレになる可能性が高いとみられる。

 簡単な試算によれば、2007年の前半には、消費者物価上昇率が、1%近くまで急激に上昇する‘インフレ・ショック’が生じるとみている。その意味で、インフレの再来は徐々に手の届くところまできている。

 増税や歳出カットを急がずに、インフレになるを待てば、財政再建ははるかに容易なものとなるのではないか。緊縮政策による財政健全化に傾斜しすぎることは、得策ではないように思われる。

 

以 上
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