2005年11月08日

白川 浩道
景気減速、株価調整へ



1.景気は来春にかけて減速へ

 景気は9月から緩やかな減速過程に入ったとみられる。7−9月期のGDP統計では、公的資本形成や純輸出の回復によって、なんとか4四半期連続の実質プラス成長を達成できるとみられるものの、実質成長率は年率で1%前後と、前期から大きく鈍化する公算にある。また、10−12月期から来年1−3月期にかけても、景気が再加速する可能性は低く、年率で2%に達するような高成長は到底望めない。

 来年春にかけての景気減速の主たる背景は、原油高による企業利益環境の悪化、ハイテクや一部素材を中心にした製造業の在庫調整の遅れ、建設投資の一巡、などである。また、来年1月から始まる定率減税の縮減も景気鈍化の一因になるとみられる。

 特に、民間部門の建築着工(非住宅)は、6月以降、減速感が強まっており、9月は、前年比がマイナス13%強に達したことは懸念される。工場や倉庫の建設需要はピークアウトしており、企業設備投資は構造物投資を中心に鈍化傾向にあるのは明らかである。

 重要なことは、短期的な景気減速を前提にすれば、11月分からプラスに転じると予想される消費者物価前年比が安定的にプラス領域に止まる保証はないということである。我々が注目しているのは、サラリーマンの現金給与の伸びがピークアウトする中で、単位生産当たり労働コストが7−9月期に再び下落したと推計される点である。

 足元では、賃金インフレ圧力は、強まるどころか、むしろ弱まっている。日本の場合、原油高は、企業に人件費抑制インセンティブをもたらしているとみられ、こうした状況に定率減税縮減という増税が加われば、個人消費の地合いは悪化する可能性が高い。

 個人消費の地合いが悪化すれば、年初のディスカウント・セールが拡大する可能性があり、その場合、ガソリン価格の軟化とともに、消費者物価の伸びを抑える要因になるとみられる。来年1−2月には、消費者物価前年比がゼロないし小幅のマイナスに逆戻りするリスクはかなり大きい。消費者のインフレ期待が強まり、その結果、個人消費が拡大する、という楽観シナリオを採るのは、まだ早い。


2.株価は下落、長期金利は低下へ

 日銀がキャンペーンを主導し、外人投資家がそのキャンペーンに素直に乗ってきた、「デフレ脱却シナリオ」には黄色信号が灯ったと判断される。上記で指摘したように、来春にかけて、消費者物価前年比が再び小幅のマイナスになる可能性を否定できないからである。消費者物価のプラス化が定着せず、量的緩和解除期待が後退した場合、来春にかけて、銀行、小売を中心に株価の調整が起こると考えるべきだろう。また、その場合、株価上昇を受けて緩やかに上昇してきた長期金利は、外人勢のショート・カバーを主因に低下すると読む。


3.注目材料:バーナンキ新議長で世界が変わるか?

 さて、来年後半以降の世界経済の鍵を握るのは、引き続き、米国の金融政策運営である。

 筆者は、そもそも、グリーンスパン時代の米国の金融政策運営は、景気変動の振幅を大きくしてきたという意味で失敗の連続であった、と考えている。グリーンスパン議長の下で実施された利上げは、88−89年、94−95年、99−00年の3回の局面全てにおいて、最終的には、当時の経済ファンダメンタルズからみて行き過ぎたものとなり、その結果、米国景気の大幅減速や株価の調整をもたらした。そして、景気減速と株価下落の後には、決まって、思い切った金融緩和が実施され、新たな資産バブルと景気拡大が生じた。

 言い方は好ましくないかもしれないが、グリーンスパン時代の金融政策は、政治的に高い評価を受ける株価や景気再生をもたらす大幅金融緩和を正当化するために、一時的に、過度な金融引き締めを断行する政策であったと言っても過言ではないだろう。

 仮にグリーンスパン議長が来年1月末以降も政策の舵を取っているなら、4.75%までの利上げは必定であったろう。その結果、株式市場が大きく調整し、景気後退となっても、2007年に利下げに入れば、2008年には景気が再浮上し、2008年末の大統領選(本選)時には、与党有利の状態が形成される可能性が高いからである。

 注目は、バーナンキ新議長は、そうした景気や株価のスイングを好まないタイプではないか、ということである。過度な利上げと早期の利下げ転換といった政策の組み合わせを採るのではなく、FF金利の中立レートを慎重に見極め、過度な利上げもアグレッシブな利下げも行わない可能性がある。

 従って、FF金利の引き上げが4.25%で止まる(12月会合の利上げで打ち止め)可能性もある。この場合、来年後半の米国景気は堅調に推移する一方、2007年に入ってから、小幅の追加利上げがあるかもしれない。バーナンキ新議長になって、景気や株価のスイングが縮小し、世界的に「新たな安定成長」の時代が来るかもしれない。この点に注目したい。

 

以 上
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