2005年11月17日

白川 浩道
量的緩和解除はまだ早い



金融政策は財政再建を支援すべき

 結論から述べる。量的緩和の解除は時期尚早である。向こう2年程度、量的緩和政策を継続すべきと考える。

 日銀には、政府の最優先政策課題である財政再建を支援する責務がある。銀行システムの健全化に目処が立った以上、ジャブジャブの資金供給を続ける必然性はない、という日銀の論理は通らない。

 財政再建が喫緊の課題であることに異論を唱える政策担当者はいないだろう。今ここで国と地方の累積的な借入れの拡大に歯止めをかけない限り、国債市場は、向こう6、7年のうちに、暴落の憂き目に遭うだろう。急激に進む高齢化が社会保障支出を爆発させるからである。

 財政再建には、名目成長率の上昇を背景にした税収の持続的な増加が不可欠である。景気下押しリスクを伴う増税には頼れないからである。

 肝に銘じておかなくてはならないことは、かなり高い名目成長率を目指さない限り、財政再建はままならいということだ。名目GDPが1%拡大しても、国の税収は2%、1兆円弱しか増えない。これでは、高齢化には対応できない。税収を毎年3、4兆円増加させたいと考えれば、名目GDPは3、4%拡大しなくてはならず、金融緩和の継続が必要である。


景気の足腰はまだ脆弱

 日本経済はデフレ・スパイラル突入の瀬戸際からなんとか這い上がっただけであり、足腰はまだ脆弱である。名目成長率が、財政再建に必要なプラス3、4%に到達する可能性は極めて低い。

 しかし、現実の日本経済の問題は、プラス3、4%の名目成長率を達成できないというものではなく、プラス1%の名目成長率すら維持できないかもしれないというものである。

 景気鈍化をもたらす要因を挙げることは容易だ。まず、財政支出の削減である。補助金削減や公共投資の一段の抑制の下で、地方景気に対する下押し圧力が強まるだろう。

 次に、世界景気のピークアウトである。中国経済はなんとか堅調を維持するだろうが、米国の成長率が低下するのは時間の問題である。これまでの利上げで、住宅投資には減速感が出てきており、住宅価格の伸びも鈍っている。これが資産効果の巻き戻しとなって個人消費に悪影響を及ぼしつつあるなど、米国景気には既に変調の兆しがみえる。

 国内需要をみても、持続的な高成長を予感させるものは少ない。個人消費は株価上昇の影響を受けている一部富裕層で好調であるが、給与のピークアウトからサラリーマンの消費は盛り上がりを欠く。設備投資も、オフィス建設は好調を維持しているものの、工場建設や工作機械の投資は明らかに減速している。更新投資だけで設備投資の成長が支えられるとの見方は幻想に過ぎない。


量的緩和を解除すれば、景気後退のリスク

 こうした状態で量的緩和を解除すれば、国内景気は、再び後退局面に入る可能性が高い。

 日銀の内部では、量的緩和の景気刺激効果は限定的であり、従って、量的緩和を解除しても景気が落ち込むことはない、との見方が主流になっているようである。しかし、この見方は誤りだ。

 筆者の理解では、量的緩和は、2つのルートで国内景気を刺激してきた。

 第1のルートは円安による輸出および企業利益の拡大であり、第2のルートは株高・地価上昇による資産効果である。

 極めて重要なことであるが、量的緩和は、超低金利が長期化するという期待を通じて、個人の外債、株式、不動産投信などに対する投資を強く刺激し、景気拡大の原動力となってきたのである。

 量的緩和が解除された場合、逆の現象が起こると考えなくてはならない。個人の金利上昇期待が戻ることで、個人マネーが、銀行預金、郵貯、国債などに回帰するだろう。その結果、円高と株安・地価下落が生じ、日本経済は大きなデフレ・ショックに見舞われることになる。

 新たなデフレ・ショックによって財政再建に赤信号が灯れば、景気は悪循環に陥る。財政破綻懸念が個人の貯蓄意欲を高めるからである。


量的緩和を消費者物価から切り離せ

 日本経済が再びデフレ・スパイラル的な状況に戻るリスクが少なからず存在する以上、日銀は量的緩和解除に慎重でなくてはならない。

 そうした意味では、「安定的にゼロ%以上の消費者物価が達成されること」という量的緩和解除の条件は、早期に見直されるべきだろう。代替案としては、「安定的にゼロ%以上のGDPデフレータが達成されること」というのが望ましい。

 日本の消費者物価には、コアと言いながらエネルギー価格を含めているといった大きな問題がある。足元では、ガソリンと灯油価格による消費者物価押し上げ効果は0.4%ポイントにも達する。ガソリン価格の高騰によってプラス化した消費者物価を基準に量的緩和を解除することは、デフレ下で金融政策を引締めることを意味する。

 量的緩和政策が消費者物価から切り離された上で、それが長期的に維持されることを期待したい。

 

以 上
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