2000年09月27日

白川 浩道
日本経済の原油高耐久力は向上

 原油価格の高騰が世界的に問題になっており、先般のG7会合でも原油高に対する対応が協議された。そもそも原油高の影響を議論するに当たっては、現在の原油価格水準が今後どの程度の期間継続するのか、原油高の下で為替市場はどのような方向に向かうのか、といった点をどのように考えるかによって、結論に差が出る。原油価格については、年内は需要堅調を背景に高止まりするとの見方が一般的であるが、来年については、先進国経済のスローダウンによる需要減退等の下で原油価格が下落傾向を辿る可能性が指摘されている。無論、原油価格の高止まりが継続するリスクは否定できないが、標準的なシナリオとしては、来年にかけて原油価格が低下(WTI<バーレル当り>:2000年平均30ドルから2001年25ドル程度)するものと考えている。加えて、為替相場については、来年についても円相場は堅調に推移する可能性が高い。

 この背景としては、基本的には2点ある。1つは、米国経済の顕著なスローダウンであり、もう1つは、日本におけるマクロ経済のポリシーミックスが大きくは変わらない、ということである。マクロのポリシー・ミックスについては、金融政策が緩やかな引き締め、財政政策が拡張スタンス維持ということであり、これは、実質金利の高止まりを通じて円相場をサポートすることになる。このように考えると、原油高の問題については、今年度後半から来年度前半にかけての影響を読むことが基本となる(来年度後半以降に原油価格高騰の影響が継続する可能性は限られている)。

 さて、原油価格高騰の日本経済への影響はどのように考えれば良いか。まず、初めに、経済の原油高に対する耐久力は、2度の石油ショックを経て着実に高まっていることを確認しておきたい。これは、2つの指標から示される。1つは、電力生産における石油火力発電のウェイトの低下である。70年代初めには生産される電力のうち、およそ78%が火力発電であった。その後、80年代以降、火力発電のウェイトは低下傾向を辿り、98年には、55%を切るところにまで低下した。こうした火力発電のウェイト低下は基本的に原子力発電のウエィトの上昇によってもたらされており、火力から原子力への代替が大きく進んだと言える。

 第2には、こうした火力発電への依存度低下やエネルギー効率の向上によって、原油輸入額の名目GDPに占めるウエィトも大きく低下した。すなわち、70年代初には5%程度あったとみられるものが、99年では0.7%程度となっている。ここでごくラフな試算を行ってマクロ的な原油高の影響をみてみよう。仮にGDP対比で0.7%のシェアを占めるものが、全て輸入で賄われているとして、この価格が60%上昇したしよう(00年平均の99年平均でみればその程度か)。すると、名目輸入の増加による名目GDP下押し効果は0.4%ポイント程度となる一方、物価に対する押し上げ効果も同様に0.4%ポイント程度となろう。従って、ごく単純に考えれば、実質GDPの概念で0.8%程度の下押し要因になると言える。

 しかし、実際には、原油高の「直接的な影響」はそこまでは大きくない可能性がある。すなわち、まず、第1には、原油価格の上昇は原油輸入数量に対して抑制的な効果を持つ可能性があり(すなわち、原油輸入数量の価格弾性値は有意)、原油価格の上昇がそのままストレートに名目GDPの下押しにはならない可能性がある。実際、足元では、原油価格の上昇の下で、価格の落ち着いている石炭の輸入数量が増加している。

 また、もう1つには、原油価格といった投入価格の上昇が最終物価の上昇となってそのまま浸透するかは、個人消費、設備投資といった最終需要の動向に依存する。最終需要が弱い状態では、原油価格を中心としたエネルギー価格上昇の最終物価への転嫁は限定的となるからである。少なくとも現状では、WPIの最終財価格は前年比−1.8%と全く上昇する気配がなく、最終物価への転嫁はマクロ的にみてほとんど行われていない。短期的に石炭への代替が進展するとともに、需要の弱さから最終物価への転嫁も限定的であれば、少なくとも「原油高」の直接的な影響は、無視し得る程度の大きさとみておいて良い可能性すらある。

以 上  
TEL: 03-5297-7311 - FAX: 03-5297-7314
Copyright © 2000 CMD Co., Ltd. All rights reserved.
Prev Index Next