2006年01月30日

白川 浩道
2006 / 2007年の日本経済と株式市場


本年初のコメントであるので、向こう2年程度の日本経済を展望するとともに、株式市場のテーマと方向性を考えてみよう。少し長いが、お付き合い願いたい。


1.世界経済

まず、世界経済の環境であるが、残念ながら、景気減速を予想せざるを得ない。最大の懸念である米国経済は、今年の後半には、住宅投資と個人消費の本格的な調整過程に入りを受けて、潜在成長率(3%強)を下回る2%台前半にまで減速しそうである。そして、2007年いっぱい、3%台半ばを上回るような成長率の回復は望めない。

米国景気の減速は、金融政策の行過ぎた引き締めによるものである。米国経済の歴史を振り返ると、過度な金融引き締め→景気後退→過度な金融緩和→景気拡大→過度な金融引き締め、という、いわば、金利政策による「ストップ・アンド・ゴー」が繰り返されてきた。そして、今回もその例外とはならないのである(唯一の例外は、96年から99年の4年間であり、この間は、金融政策が景気に対してほぼ中立的に運営され、景気も安定していた)。

なぜ、金融引き締めが景気回復を殺してしまうほど、行過ぎたものになってしまうのか。それは、不動産価格の上昇を過度に警戒するあまり、銀行部門を必要以上に疲弊させてしまうからである。確かに、中長期的にみて持続可能ではない不動産価格の上昇は、個人の過度な銀行借入れや過剰消費を通じて、経済の安定成長を脅かす。しかし、不動産市場を叩こうとして利上げを継続させると、最後には、銀行の利鞘が大きく縮小し、クレジット・クランチ的な状況をもたらす。現在の米国経済では、その兆候がみられ始めている。

ひとたび、銀行が貸出に消極化した場合、「借入れ経済」である米国経済には、逆資産効果のスパイラルが始まることになるだろう。銀行信用収縮→不動産価格下落→個人のバランスシート悪化→個人消費減速、というプロセスである。このため、米国は、2007年初には、金融緩和(利下げ)に転じるものとみられる。2008年終わりに大統領選を控え、政治的な圧力が強まるからである。しかし、金融政策と景気の間には、約1年のラグがある。従って、米国景気が再び回復するのは、早くても、2007年終わり頃となるだろう。

なお、中国経済については、米国経済に比べて、相対的には堅調に推移するとみられる。海外から中国に向けた直接投資は増加基調を維持する見込みにあるほか、2008年の北京オリンピックを前に、社会資本整備が進むからである。もっとも、米国景気が減速すれば、ある程度、その影響を被ることは避けられない。中国では、ハイテク関連製品の生産が拡大してきており、米国景気の減速は、ハイテク産業に打撃となるからである。


2.国内景気

このように、世界景気は、今年の後半から来年一杯、減速することが予想される。しかし、国内景気が大きく崩れる可能性は低い。向こう2年程度についても、平均でみて、実質2%成長は達成できる見込みにある。

それは、日本経済の「自律性」あるいは「独立性」が高まっているとみられるからである。背景として、以下の6点を指摘しておこう。

  1. 企業の資本ストック(工場等の生産設備、小売店舗、オフィスなど)が老朽化しており、更新投資需要が高水準で推移するとみられる。なお、多くの企業は、90年代終わり以降のリストラによってバランスシートを大きく改善させており、キャッシュフローが極めて潤沢である。外人の持ち株比率が上昇しているが、外人株主は、日本企業に、設備投資の積極化を求める方向にあり、これも、更新投資を後押しするだろう。

  2. 若年層の定職離れもあって、熟練労働者を中心に、労働需給が一段と逼迫化することが予想される。これが基本給の水準をジワジワと持ち上げ、消費マインドの改善をもたらすであろう。サラリーマンの勝ち組では、消費意欲が高まるものと予想される。

  3. 団塊世代が定年退職年齢に差し掛かり、彼らの消費が個人消費全体を牽引することになる。統計的には、1人当たりの消費水準は、50代の後半から60代の前半にかけて最も上昇する。すなわち、最もお金を使う世代の比率が上がってくることになる。

  4. 不良債権処理の進展により、銀行の信用リスクテーク能力がかなり回復した。このため、低キャッシュフローの中小企業や個人に対する信用創造が加速してくる可能性が高い。

  5. 来年夏には参院選挙が予定されている。こうした中で、与党は、「財政健全化を小さな政府の下に達成する」という、小泉改革の基本方針を引き続き積極的に打ち出していくであろう。消費税増税論議は、今年9月の自民党総裁選前後から一段と加速する可能性を否定できないが、選挙を控え、「まずは歳出改革」という姿勢が継続するであろう。このため、増税懸念が国民のマインドを悪化させる可能性は低い。


3.株式市場の見通し

過去半年程度における株式市場のテーマ(市場を動かした期待要因)は、 [1]政治的安定の下での経済構造改革加速期待、 [2]デフレ脱却期待、 [3]その一方での低金利政策長期化期待、 [4]日本企業のコーポレート・ガバナンス改善期待(株主重視政策への転換)、の4つに要約される。これら全てが、株価上昇をもたらした。

果たして、向こう2年間を展望した場合、どうなるのか。結論から言えば、 [3]を除いて、期待がさらに盛り上がる可能性は低い。従って、今年後半から、株価が弱含む展開を予想する必要がある。

[1]については、最大の焦点は、今年9月に予定されている自民党総裁選である。現状では、外人投資家を中心に、安倍内閣官房長官を次期首相として予想する向きが多く、同時に、「小泉改革路線継続」を期待している。しかし、問題は、首相ではなく、次期内閣の顔ぶれである。郵政改革、財投改革、公務員人件費削減など、改革の目玉については、中川政調会長や竹中総務大臣などの改革派の貢献によるところが大きい。昨今のライブドア問題や耐震偽造問題は、自民党内の勢力図になんらかの影響を与える可能性があり、次期内閣の顔ぶれが、外人の予想とは異なり、「やや改革路線を後退させるイメージ」となる可能性がある。注意したい。

[2]については、方向性としては間違っておらず、それが急速に萎んだり、あるいは反転したりすることはないだろう。しかし、日本経済がデフレから脱却するスピードはかなり遅い。それは、日本企業の価格支配力が復活するには、まだまだ、時間がかかるからである。工業製品に関する世界的な競争環境が緩和する可能性は低く、日本企業が、生産拠点を海外に移す、あるいは、全体として人件費を抑制しようとする動きに大きな変化はないだろう。また、国内における過当競争的な状況が完全に是正されるのにも時間がかかる。例えば、小売業の売り場面積は年間2−3%で拡大している。個人消費が3%を大きく超えて伸びない限り、流通業の需給ギャップも縮小せず、消費者物価も上がらない。

[3]については、日銀内部では、不動産バブルや株価バブルを懸念する声が強まっており、金利水準を早く正常化したいという意識がある。正常化の定義に定説はないが、年内に、政策金利を0.25%、さらに来年に0.75%程度引き上げて、1%程度まで持って行こうとするリスクがないとは言えない。しかし、来年夏には選挙を控えているほか、デフレ脱却の歩みがのろい以上、日銀が政策金利を短期間のうちに大幅に引き上げる可能性は低い。

最後に[4]に関しては、ライブドア問題を受けて、世の中で拝金主義や安易な企業M&Aに対する否定的な見方が強まる可能性があり、これが、やや誤った形で、株式市場重視経営の否定に繋がる可能性がある。かつてのような従業員重視的な経営姿勢に回帰するとは考えられないが、時価総額極大化経営を嫌う傾向が出て来よう。その結果、株式市場の活気が幾分奪われると読まざるを得ない。

 

以 上
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