2006年02月14日

白川 浩道
量的緩和解除後を読む



見えた4月末の量的緩和解除

「ゼロ金利政策が当面維持されるのであれば、量的緩和解除はそろそろ認めても良いのではないか」という風潮が、財務省、自民党において強まっている。

こうした風潮は、(1)経済界、金融界において、景気楽観論が広がる一方、そもそも量的緩和自体に景気刺激効果はないとの見方がコンセンサスになってきたこと、(2)政府内で、日銀の独立的な政策判断を長期に亘って容認しないと日銀の強い反発を招き、結果的に逆効果になるとの見方が出てきたこと、(3)政府・自民党では、財政健全化との関係で3−5年程度の中期の経済政策運営に焦点が当たるとともに、短期的な金融政策運営に対する関心が薄らいでいること、など、複合的な要因が背景になっている。

そうした中で、日銀は、4月末にも、量的緩和解除を決定するだろう。当座預金残高を操作目標として来た政策(過剰流動性政策)に終止符を打ち、01年3月以来、およそ5年ぶりに、短期金利(オーバーナイト・コール・レート)を操作目標とする、従来型の政策運営に戻ることになる。金融政策“正常化”の第一歩である。


量的緩和解除後の焦点

金融政策の枠組みに関する世界的な流れは、インフレ・ターゲティング政策に代表されるように、物価や成長率の「最終目標」を設定する一方で、政策手段である短期金利の変更は中央銀行の裁量に任せる、というものである。中期的にみて望ましいインフレ率や経済成長率を設定することで、金融市場の期待形成を安定化させる一方、中央銀行の独立性と政策判断の柔軟性を確保しようとするものである。

これまで日銀が採用してきた量的緩和政策は、こうした世界的なスタンダードには全く合致しない。簡単に言えば、ほぼ逆さまである。なぜなら、政策手段の変更について、「消費者物価が安定的にプラスを維持すること」という厳しい条件をつけ、柔軟性を放棄する一方、中期的にみて望ましいインフレ率や経済成長率は一切示していないからである。

量的緩和解除後の金融政策運営は、こうした「異例」を是正し、世界のスタンダードにならうのであろうか。つまり、望ましいインフレ率を示した上で、金利変更に関する日銀の自由度を高めるようなことになるのだろうか。


予想される混乱

頭で考えれば、望ましいインフレ率を決めることはそう難しそうには見えない。世界的には、「プラス1−3%のインフレ率が良さそうである」との共通認識が出来上がっているからである。しかし、現実には話はそう簡単ではない。金融政策をめぐる混乱は当面続く。

問題は、実際のインフレ率がゼロ%を少し上回った程度であるため、「1−3%」を望ましいインフレ率であると仮に定義した場合、「インフレを積極的に起こすべきである」と主張していることにほぼ等しくなってしまう、というところにある。

「インフレを積極的に起こすべきである」という主張が簡単には受け入れられない理由はいくつかある。

  1. 固定額の年金を受け取る年金生活者にとっては、実質的に所得が目減りすることになる。低金利が維持された場合、預金金利も上がらず、預金所得で穴埋めすることはできない。年金生活者のインフレ・アレルギーは強い。

  2. 日本のインフレ率(消費者物価上昇率)の過去20年の平均はたったの0.6%程度である。1%以上にインフレ率を持ち上げると政府が宣言したら、消費者はインフレが来る前に物を買おうとするだろう。その結果、一時的に品不足が生じ、さらにインフレが強まるだろう。過剰消費が起き、その後、急激に景気が冷え込むリスクがある。これを警戒する声が出てくるだろう。

  3. 日本は、ゼロ%の物価でも株価が年間4−5割上昇する国である。インフレ率を3%にするなどといったら、株価や地価が暴騰する可能性がある。資産バブルの再来である。こうした中で、未然に資産バブルを防ぐべきとの議論は多い。


市場は不安定化

量的緩和解除後の金融市場では、期待形成が不安定化する可能性が高い。為替相場、株価、長期金利が乱高下する展開となるだろう。

最大の背景は、「物価目標」が示されない中で、金融政策のファジー度が増すからである。市場は、いつ、どのくらい、日銀が金利を引き上げるのか、予想がつきにくい状況に晒される。これまでは、消費者物価がゼロを上回るかどうか予測していればよかった。しかし、そんな楽な時代は終るのである。疑心暗鬼相場の到来に備えなくてはならない。

 

以 上
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