2000年10月04日

白川 浩道
原油高による交易条件悪化はリストラ加速要因に

 前号では、原油価格高騰が日本経済に直接的に与える影響は限定的であることを指摘した。しかし、ここで忘れてはならないことは、原油価格上昇が最終物価に転嫁されていないということは、その背後で、とりわけ原材料、中間財を生産する企業を中心に交易条件が悪化し、その収益がスクイーズされていることを示している。実際、00年入り後8月までをみると、製造業全体の交易条件は前年対比で4%程度悪化しているが、これを業種別にみると、石油・石炭製品、化学の悪化が顕著である。

 問題は、今後、こうした製造業における川上の産業の交易条件悪化が、どの程度、川下の産業に転嫁されていくかである。こうした効果を現状で見通すのは容易ではないが、川上の産業のみでショックを吸収できなければ、基本的には川下の企業でも交易条件が悪化せざるを得ないであろう。

 このように、最近の原油高の日本経済への影響をみる上では、交易条件の悪化を通じた企業収益下押し圧力をどの程度とみるかが重要であろう。マクロ的にみた交易条件の悪化は上でもみたように前年比4%程度であり、これを歴史的にみると、湾岸戦争の勃発した90年とほぼ同幅の交易条件の悪化である。敢えて確認するが、原油価格の上昇という点では、今年入り後の平均の方が90年の平均的な上昇率よりも高い。

 すなわち、湾岸戦争時よりも大幅な原油価格ショックを受けているにもかかわらず、交易条件の悪化は同程度に止まっている。これは90年代にもエネルギー代替が進んでいること、為替相場の円高化が効いていること、原油以外の素原材料価格が落ち着いていることが背景にある。

 さて、湾岸戦争時並みの交易条件の悪化が企業収益に与える影響はどのように考えれば良いであろうか。交易条件の悪化と企業収益との関係については、以下のチャートが示しているように、交易条件が悪化してから、1−2年のラグをおいて企業収益が悪化するという関係がみてとれ、方向性という点ではそれなりの相関があると言える。ただ、両者の定量的な関係(何%交易条件が悪化すると、何%企業収益が悪化するか)については必ずしも安定的な関係はない。

 これは、企業収益には、交易条件以外の要素、例えばバランスシート調整や経営合理化、リストラといった要素が影響を与えるからである。この点、今年度について言えることは、仮に交易条件がそれなりに悪化していても、98年度、99年度の合理化努力が企業収益をサポートし、過去の経験ほどには企業収益が減少しない可能性が高い。合理化による収益力の向上が、みかけ上は収益の落ち込みを防ぐということに他ならない。しかし、交易条件の悪化は他の条件を一定とすれば、収益にマイナスとなることは間違いない。企業が収益の悪化による株価への影響に敏感であれば、交易条件の悪化をコスト削減でカバーしようとするであろう。

 結果として、雇用リストラとなる可能性が高い。家計部門は最終物価の上昇による実質所得の減少は回避できても、名目賃金の下落に直面する可能性がある。原油価格の上昇は、こうしたメカニズムを通じて、個人消費減退をもたらす可能性があることを見逃してはならない。

以 上  
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