2006年05月31日

白川 浩道
増税か、インフレか?



歳出削減だけで財政再建は不可能

 財政再建は、引き続き、経済政策上の最重要課題である。2005年度の国のプライマリーバランス赤字(基礎的財政収支赤字)は、およそ16兆円、対GDP比で3%強であったと推計される。政府は、このプライマリーバランス赤字を団塊世代に対する公的年金給付が開始される2012年度まで(2011年度中)に解消することを計画している。

 問題なのは、今後、高齢化の進展に伴って、社会保障給付費用が、毎年1兆円弱増加していくと予想されることである。さらに、長期金利がほぼ横ばいで推移したにせよ、国債費(国の国債元利払い)も毎年1兆円程度増加するものとみられる。このため、2006年度から2011年度までの向こう6年間で、社会保障費と国債費の合計は10兆円程度も増加してしまう。国にとって10兆円の新たな負担増が出てくるわけである。

 このことは、プライマリーバランス赤字を2012年度までに解消しようとすれば、向こう6年間で、25−26兆円(16兆円+10兆円)もの財源を確保しなくてはならないことを意味している。

 しかし、こうした膨大な財政負担を歳出削減に頼って捻出することには無理がある。行政改革の一環として政府が最も積極的である公的部門の総人件費(国と地方を合わせて約30兆円、うち地方は約25兆円)を毎年度5%削減したにせよ、国の人件費は毎年度2500億円程度しか減少しない。

 また、政府は、国の公共事業を毎年度3%削減する方針を固めたが、2006年度予算ベースの公共事業費は既に7.2兆円しかなく、これを3%削減しても、毎年度2000億円強の歳出削減になるだけである。

 このように、行政改革や公共事業削減による国の歳出に対する削減効果は、向こう6年間で高々3兆円程度にしかならない。

 今年度の経済成長による税収増加分や特殊法人への補助金削減等を織り込んで考えても、来年度からの5年間で、20兆円程度の新規財源を手当てできない限り、2011年度までのプライマリーバランス赤字解消は不可能であろう。


財政再建には強力なインフレが必要になる

 社会保障支出の削減を行うか、政府資産の売却を進めない限り、日本は、5年後の2011年度の税収を現在の水準よりも20兆円増加させておく必要があるわけである。

 5年間で税収水準を20兆円引き上げるには、単純計算では、毎年、税収水準を4兆円程度引き上げなくてはならない。これは、率にすれば、毎年6−8%で税収が増えなくてはならないことを意味する。

 名目経済成長率が1%上昇しても、税収は高々1.5%程度しか増えないという経験則からすると、増税を行わない場合、名目経済成長率には、毎年4−5%という高い伸び率でコンスタントに走ることが要求される。日本経済の潜在実質成長率が1.5〜2%程度であると考えれば、インフレ率はプラス2〜3.5%で推移しなくてはならない。

 このように、増税に頼らず、インフレによる経済活動の膨張によって税収を増加させようとした場合、かなり高いインフレ率の実現が必要となる。これは、バブル景気を繰り返す必要性を示しているに等しいであろう。総合的なインフレ指標であるGDPデフレータが3%を超えたのは、バブル後の1990年代初めであったからだ。


バブルが嫌なら増税へ

 しかし、1980年代の土地バブルの再来を望む国民は少ないのではないか。バブル景気とは実力以上の景気であり、その崩壊の後には、恐ろしい不景気が待っている可能性が高いからである。

 そうであるなら、消費税増税は不可避である。仮に名目経済成長率がプラス1〜2%という安定成長を維持すると想定した場合、消費税率は2011年度までに7%ポイント(5%→12%)の引き上げが必要になる計算である。

 イメージからすれば、2008年度に3%ポイント、2010年度に4%ポイント、それぞれ、消費税率を引き上げることになるだろう。


増税VSインフレへ

 一部メディア報道によれば、5月27日、次期自民党総裁の有力候補である福田氏が名古屋市における公明党議員主催の講演会で政策論を展開した。意外であったのは、同氏が、外交政策ではなく、経済政策面でのコメントを前面に出したことである。

 福田氏が強調したのは、消費税増税の必要性である。一部新聞報道によれば、福田氏は、「仮に消費税を5%引き上げれば年間12兆円くらいの収入が入り、10年で120兆円になる。着実に借金を返して行かなくてはならない」と述べたとのことである。

 こうした消費税増税容認論は、もう1人の有力候補である安倍氏とは一線を画すものであると考えられる。安倍氏は、財政健全化について、「まずはしっかりと無駄遣いをなくしていけ、というのは国民の声だ」としている。財政赤字の削減には、歳出削減や国有財産売却を優先した上で、最後の手段として消費税増税を検討すべきであるとの姿勢である。

 しかし、上記でみたように、歳出削減で財政を立て直すことは非現実的であり、安倍氏は、早晩、インフレ率目標の引き上げ(高インフレ政策)をぶち上げざるを得ないだろう。

 9月下旬に予定されている自民党総裁選に向けて、“増税の福田”VS“インフレの安倍”という構図が出来上がっていくであろう。

 日本株に投資する外国人は、“インフレの安倍”を支援する可能性が高い。インフレ政策が、低金利長期化による個人金融資産の地殻変動をもたらすと考えるからである。

 自民党総裁選の行方からは目が離せない。

 

以 上
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