2006年06月19日

白川 浩道
年内のゼロ金利解除に黄色信号


 6月15日の日銀金融政策決定会合ではゼロ金利政策の維持が決定されたが、債券市場では、7−8月にもゼロ金利解除が決定されるとの見方が依然として有力である。

 しかし、日銀を取り巻く環境は日増しに厳しくなっている。年内にゼロ金利を解除できるかどうか、微妙な情勢になりつつある。

 まず、短期の景気循環からみた場合、ゼロ金利解除を急ぐ理由は見当たらない。すなわち、米国ISM(供給管理協会)新規受注指数の3ヶ月連続の下落、電子部品・デバイス部門在庫の増加傾向、機械受注残高のピークアウトなどは、景気が秋以降、少なくとも一時的にソフト・スポット入りする可能性を強く示唆している。

 次に、インフレ圧力の高まりはみられない。有効求人倍率の上昇傾向に代表されるように、労働市場需給は趨勢的にタイト化(需要超過化)する傾向にある。しかし、足元では、むしろ賃金が弱含む傾向にあり、物価の先行指標であるユニット・レイバー・コスト(単位生産あたり労働コスト)は前年比1%以上のマイナスを継続させている。日銀が労働コスト上昇によるインフレ圧力の高まりを強調できるような状況にはない。

 第3に、来年度上期にかけて企業利益が大幅減益となる公算にある。1−3月期の法人企業統計をみる限り、企業の利益環境は悪化している。製造業、非製造業ともに、粗利率(売上高−売上原価/売上高)の低下が4四半期連続で観察されており、特に、製造業では、粗利率の水準が前回景気後退局面のボトムを1%ポイント以上下回るなど、事態は深刻である。

 こうした企業の利益環境悪化は、世界的な素材・エネルギー価格の上昇によるコスト高を製品価格の引き上げによって十分に吸収し得ていないことを表している。企業は、これまでのところは、生産・出荷数量の拡大による固定費の削減によって何とか増益基調を維持してきた。しかし、企業が先行きも増益基調を維持することは不可能であろう。米国景気が減速すれば、輸出数量の伸び率鈍化は不可避だからだ。

 製造業の交易条件(産出・投入物価比率)は、製造業の経常利益の先行指標として有用であることが知られている。世界的な素材価格上昇(投入物価上昇による交易条件の悪化)→欧米の金融引き締め拡大→世界景気減速→日本の輸出数量の伸び率鈍化→企業売上減少→製造業を中心とした企業利益悪化、というメカニズムが存在するからである。

 我々の分析によれば、交易条件の前年比は製造業経常利益の前年比に5四半期程度先行する。驚くかもしれないが、最近の交易条件の悪化をベースに製造業利益の先行きを試算してみると、今年度下期から来年度上期にかけて、前年度比で20−30%程度の減益となる可能性が高い。企業利益が20−30%の減益となる可能性がある状況で、日銀が利上げに踏み込めるかどうか、疑わしい。

 最後に、国内政治情勢における不透明感の強まりも早期のゼロ金利解除に対する逆風となるだろう。

 前号では、9月下旬に予定されている自民党総裁選に向けて、"増税の福田氏"VS"インフレの安倍氏"という構図が出来上がっていくであろうと述べた。そして、日本株に投資する外国人は、インフレ推進政策が低金利長期化による個人金融資産の地殻変動をもたらすと考えるため、"インフレの安倍氏"を支援する可能性が高いことを指摘した。

 ここ2週間、安倍氏が福田氏をリードする傾向が強まっている。すなわち、自民党森派では、国民人気の高さを追い風とした安倍氏擁立の動きが本格化し、福田氏に先んじてキャンペーンを始動する様相にある。福田氏の出遅れ感は否定できない。

 その一方で、次期自民党総裁候補が安倍氏で一本化されていくのか、まだ微妙な情勢にある。ライブドア問題、村上ファンド問題など一連のスキャンダルが足元で広がりをみせており、終息を予測し得ない状況にあるからだ。

 国内政治情勢がさらに流動化するリスクが出てきたが、これが外人投資家のマインド悪化を通じて株価を下押しすれば、日銀のフリーハンドは制約されることになろう。

 

以 上
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