2006年07月10日

白川 浩道
継続が予想される株価の乱高下


 世界的に株価が乱高下している。ニューヨーク・ダウ平均株価は、昨年10月下旬の下値から5月上旬の高値にかけて14%強上昇したが、5月中旬には下落に転じ、6月中旬には5月上旬の高値から8%以上も下落した。6月中旬以降はやや落ち着きを取り戻し、4%程度上昇したが、それでも、5月上旬の高値を5%程度下回る。日経平均は更なる乱高下を示している。4月上旬の高値から6月中旬の下値までの下落率は20%強にも達したが、その後、7月初めにかけては、10%近く値を戻した。

 こうした世界的な株価の乱高下は世界景気の先行きに対する不透明感の高まりを反映している。世界の投資家は世界景気が減速するリスクをかなり意識し始めているのだ。最大の懸念は、米国景気の急激な鈍化である。これまで3.5〜4%という実質成長率を安定的に維持してきた米国経済が個人部門を中心に変調をきたし、2%台半ばにも満たないような低成長に陥るのでないか、という見方である。

 米国景気の大幅鈍化を想定する最も有力なシナリオは、住宅バブルの崩壊と個人消費減速の負の連鎖である。

 米国不動産市場がバブル的な状況にあるのは周知の事実である。1999年には前年対比で概ね5%程度の伸びであった米国不動産価格は、2000年以降、急激に上昇率を高め、昨年半ばには、前年比14%を超える高い伸びとなった。足元では伸びがやや鈍化しているものの、引き続き12%を超えており、アリゾナ、フロリダ、ハワイの諸州では、20%を楽々超える高騰を維持している。

 こうした不動産価格の上昇によって、米国個人の不動産購買力は大きく低下した。所得の伸びが追いつかないからである。しかし、住宅投資は右肩上がりを続けた。それは、住宅金融が空前の拡大をみているからである。ITバブル崩壊後、当局が思い切った政策金利引き下げを断行し、金利水準全般が大きく低下したうえ、日本と中国が自国の為替相場水準安定化を目的に為替市場介入を行い、米国の金融市場に膨大な資金を供給してきた。その結果、住宅金融は大きく伸びた。

 世界的な金融緩和が米国住宅バブルを作ったのであれば、世界的な金融引き締めが進めば、いずれ米国住宅バブルがはじけるのではないか、という恐怖感が世界の株式市場を取り巻いていると言えよう。さらに、米国では、住宅資産を担保にしたホーム・エクイティ・ローンによって個人消費が刺激されてきたことから、住宅バブルが崩壊し、住宅価格が下落した場合には、個人消費に大きな下押し圧力がかかるはずであり、これも投資家の懸念を煽っている。

 それでは、米国の住宅バブルは崩壊するのであろうか?タイミングを言い当てるのはなかなか難しいが、個人的には、その可能性はかなりあると考える。なぜなら、米国の政策金利(FF金利)は、今後も上昇を続け、向こう半年以内に、住宅バブルを崩壊させるかどうかの臨界的な水準である6%を超える可能性が高いからである。

 米国当局が利上げを追加するとみられる背景を整理すると、以下のとおりである。

  1.  雇用の伸びはやや鈍ってきているが、失業率の低下傾向が継続しており、雇用環境の目立った悪化はみられていない。このため、賃金上昇圧力が強まっている。皮肉であるが、住宅バブルが崩壊するまでは、雇用・賃金が下向く可能性は低い。
  2.  製造業の設備稼働率は上昇基調にあるうえ、素材価格が上昇している。このため、生産者物価にピークアウト感がみられない。中国の経済成長が大きく鈍化するまで、こうした構図は変わらない。
  3.  銀行は融資に依然として前向きであり、銀行貸出は順調に伸びている。
  4.  ガソリン価格上昇がインフレ期待を刺激し、家計貯蓄率をマイナスの領域に低下させている。残念ながら、原油価格、ガソリン価格の上昇トレンドが変わる可能性は低く、インフレ期待がさらに高まるリスクがある。

 簡単に言えば、利上げを停止するとインフレが加速し、中期的な景気の安定性が損なわれるリスクがあり、当局とすれば、そうしたリスクを無視し得ないということである。

 米国当局のジレンマは、物価の安定と住宅市場の安定を両立させることはなかなか困難、というものである。現下のリスクは、「インフレ高進」と「住宅バブル崩壊」の2つであり、当局は、この2つのリスクの板ばさみになっている。前者のリスクを抑え込もうとすれば、後者のリスクは抑制し得ない。やや酷な言い方かもしれないが、インフレを抑えようとすれば、住宅バブル崩壊は不可避となる可能性が高いのである。

 中国景気好調の下での素材や原油価格の下落、米国企業の労働生産性の急激な回復によるインフレ期待の低下、住宅市場の自律的な調整などが生じれば、こうしたジレンマは解消される可能性がある。しかし、これは、いくつかの幸運が重ならなくてはならないという意味で奇跡に近い。従って、世界の株式市場は、米国当局と同様、ジレンマに悩まされることとなるだろう。株価の乱高下はおさまるどころか、今後、秋にむかって、ますます激しさを増す可能性に気をつけたい。

 

以 上
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