2006年07月24日

白川 浩道
自民党総裁選と日銀


 福田元官房長官が9月20日に予定される自民党総裁選への出馬を見送ることとなった。このため、次期自民党総裁・首相に安倍晋三官房長官が就任する可能性が大きく高まった。

 改めて言うまでもないことであるが、福田氏の戦線離脱によって、対アジア外交面における安倍・福田両氏の対立が秋の総裁選を左右する構図は消えた。アジア外交のあり方はもはや総裁選のホット・イシューではなく、また、現政権がアジア外交の基本姿勢見直しに取り組む必要もなくなった。こうした中で、経済問題が政治の表舞台に躍り出して来る可能性が高い。そして、その意味において、秋の自民党総裁選は、「安倍対谷垣」という新たな対立の構図を生むことになるだろう。

 焦点は2つある。1つは格差社会への対応、もう1つは財政再建のあり方、である。

 格差社会への対応とは、いわゆる“負け組”に対する新たなセイフティネット(公的支援)の構築を意味する。格差社会への対応が必要になっている背景としては、市場経済至上主義に対する一般世論の批判が徐々に強まっていること、地方における与党支持基盤が構造的に弱くなってきていること、を指摘できよう。なお、格差社会への対応策の導入は、結果として“小さな政府化”のスピードを緩めることになる、ということも忘れてはならない。

 重要なことは、安倍官房長官が格差社会是正にかなり前向きである、ということである。この点については、同官房長官が自らが議長となっている「再チャレンジ推進会議」が5月30日に公表した中間取りまとめが参考になる。同中間報告では、採用制度改革、事業再生支援、定年後支援などが謳われたが、具体的施策の案のうち、国家公務員・地公体の中途採用拡大・推進、パートタイマーに対する社会保険拡充、政府系金融機関・信用保証協会による事業再生融資の拡充、再チャレンジ推進地域会議の設置による地公体のU・Iターン支援、などが目をひいた。

 安部官房長官が格差社会への対応に前向きであることは、格差社会問題が総裁選に向けた中心的な論点とはなりにくいことを意味する。従って、「安倍対谷垣」という新たな対立の構図は、“財政再建策に対する対立の構図”となることを意味する。勝敗はともかく、増税回避の安倍氏か、増税の谷垣氏か、という形での一騎打ちが想定される。

 そうした中で金融政策はどうか。我々は、金融政策のあり方に関する安倍・谷垣両氏の考え方には微妙な差があると理解している。それは、中期的に考えた場合、増税回避は成長率加速を、増税は成長率安定を、それぞれ必要とするからである。

 重要なことは、増税を決定する当たっては景気減速も景気加速も好ましくない、ということである。景気が減速してしまえば、景気減速時になぜ増税をするのかと批判される一方、景気が十分に強くなってしまえば、あえて増税は不要とされてしまうからである。

 安倍氏は「低金利政策の長期化は必要」とかなり明確な注文をつける公算が高い一方、谷垣氏は「景気気回復を持続的なものとするために、金融面から経済をしっかり支えてもらう必要がある」という、やや曖昧な言い回しになることが予想される。

 日銀は7月14日、市場の予想どおり、ゼロ金利解除に踏み切った。その日銀が描くシナリオは10−11月における追加利上げである。日銀が追加利上げを模索する最大の理由は不動産価格に上昇モメンタムがついてきたことである。

 そうした中で、安倍氏が自民党総裁選を有利に戦うことは日銀にとっての脅威となるだろう。なぜなら、安倍氏有利という展開によって、金融市場が「増税先送り、低金利長期化」という予想を強めてしまう可能性が高いからである。市場が追加利上げを予想しなければ、日銀は動きにくい。安倍氏と日銀の関係がどのように展開するか、注意深く見守っていかなくてはならない。

 

以 上
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