2006年08月29日

白川 浩道
日銀の利上げは続く


 市場では、消費者物価指数の動きが日銀の金融政策運営に大きな影響を与えると考えられている。これは、今年3月まで続いた日銀の量的緩和政策(銀行が日銀に保有する当座預金の残高を大きく拡大させる政策)が、消費者物価指数の動きと連動して決められていたからである。市場には、その時の記憶がまだ鮮明に残っているのだ。

 このため、先週金曜日に公表された7月の消費者物価指数をみて、市場は大いに慌てた。全国ベースの消費者物価(除く生鮮食品)の前年比が6月の+0.6%から+0.2%に大きく低下したからである。エネルギーを除くベースでは、前年比−0.3%とマイナスに逆戻りし、「デフレ継続か」という見方が一気に高まってしまった。これを受けて、それまでは優勢であった「日銀が年内に0.25%の追加利上げに踏み切る」という観測は吹き飛び、債券は大きく買い戻され、長期金利は急低下した。指標性の高い10年物国債利回りは1.8%強から1.7%割れにまで下がった。

 しかし、そもそも7月の消費者物価指数の低下は、急激に個人消費が弱くなって物価が下がったという性質のものではない。極めて技術的な要因で物価指数が下がったのである。

 今回の7月の消費者物価指数の公表に当たっては、5年に一度の基準年変更と調査対象項目の入れ替えが行われたのであるが、その結果、液晶テレビやDVDプレイヤーといったハイテク家電や、携帯電話、携帯通話料といった通信関連の価格下落の影響が大きく出てしまったのである。読者も感じていることであると思うが、ハイテク家電は技術革新のスピードが速く、価格の下落が激しい。そうした項目を新たに物価の計算に付け加えれば、指数が下がるのは当然である。

 このように、足元で下方に大きく改訂された消費者物価は景気の動きとは無縁であり、日銀や政府が消費者物価の鈍化を理由に景気判断を下方修正することはあり得ない。従って、消費者物価の下方改訂のみを材料に売買を行っている債券市場の動きがやや行過ぎたものであることは素人目にも容易にわかるはずである。

 日銀が犯した最大の政策ミスは、量的緩和政策の下で消費者物価指数と金融政策のリンクを強めすぎたことである。「消費者物価が安定的にプラスになるまで量的緩和を続ける」といったルールを導入したことが最大の失策であったと言えるだろう(既にこうしたルールは過去のものとなったが)。今回のように、消費者物価は、1つの統計指標として、景気実態と乖離して修正されることがあり、その意味で不安定である。そのような1統計指標を重視しすぎることは金融政策運営の手足を縛るだけでなく、景気実態と乖離した債券市場の変動を招く。今回は下方改訂であったが、仮に上方改訂されていたらどうなるのか。逆に追加利上げ期待が一気に強まり、債券価格が暴落、長期金利が急騰していたかもしれない。

 日銀は、量的緩和時代に犯した、こうした政策判断ミスを早急に修正せねばならず、また、修正するだろう。消費者物価指数の動きだけではなく、様々な金融経済指標の動きを総合的に判断し、金融政策運営を行うことをよりはっきりと表明するだろう。

 特に、最近、日銀は、不動産市場の活況ぶりに注目している。低下を続けるオフィス空室率、上昇基調に入った賃料、拡大が継続する銀行の不動産ファンド向け融資など、一部大都市圏を中心に、バブル的な様相さえ呈しているのが最近の不動産市場である。

 1980年代後半から1990年代前半にかけての資産バブルの生成と崩壊という苦い経験をした日銀が、資産バブルの兆候を見過ごすわけはない。消費者物価が下方改訂されても、年内に追加利上げが行われる可能性は十分にあると考えておかなくてはならない。従って、長期金利が大きく低下したからと言って、金利との連動性が高い企業の株を購入することには慎重でなくてはならない。

 

以 上
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