2006年09月25日

白川 浩道
市場金利のさらなる低下で不動産価格上昇に弾み


 長期金利水準は、10年物国債利回りでみて、5月上旬のピークである2.0%強から足元では1.6%強まで既に0.4%も低下したが、今後、年末にかけて1.3%程度まで下落するであろう。

 まず、指摘したいのは、米国景気の減速感が強まっていることである。先週公表された8月の米国住宅着工は前月比で6%下落し、今回の景気循環におけるピークであった2005年2月からの下落率は26%に達した。

 この26%という下落率は、1999〜2000年、1994〜1995年という直近の2回の米国住宅着工調整局面における平均的な下落率である19%を上回っている。米国景気は1980年代後半から1990年代初めにかけて不調期を経験したが、その時期には住宅着工がピークからボトムにかけて60%も下落している。既に26%の下落をみた米国住宅着工の調整局面に終焉の兆候がみられないことは、今回の調整が1980年代後半型の深く、長いものとなる可能性を示唆している。

 理論的には、住宅価格下落懸念→住宅販売減少→住宅在庫増加→住宅着工減少→住宅供給減少→住宅価格再上昇期待→住宅販売増加→住宅在庫減少→住宅着工増加、という自律的な住宅着工回復メカニズムが働くものとみられる。しかし、住宅在庫(特に中古住宅の在庫)が大きく積み上がっていることからすれば、そうした自律的な回復メカニズムが作動するにはかなりの時間を要する。

 住宅販売・着工の調整が長期化すれば、米国の雇用市場に下押し圧力がかかる可能性が高い。建設業、不動産業の雇用は調整局面に入るだろう。この結果、米国の個人消費が、一時的にせよ、減速することは避けられまい。

 原油価格のピークアウトに個人消費の減速が重なれば、FRB(米国連邦準備制度理事会)が注目する総合CPI(消費者物価)前年比は足元の3%台後半から年末までには2%台前半に低下するものと予想される。急激なインフレ圧力の低下である。FRBは米国個人消費の動向を占うクリスマス商戦等の動きを踏まえながら、年明けには利下げに踏み切る可能性すらある。そうなれば、世界中の金利水準には低下圧力がかかる。

 加えて、7月にゼロ金利政策の解除に踏み切った日銀に大きな逆風が吹き始めた。足元では+0.2%と、なんとかプラスを維持しているコアCPI(生鮮食品を除く消費者物価)の前年比が、年明け後には一時的にマイナスに転じる可能性が出てきたからだ。

 原油価格の足元の急落により、ガソリン・灯油価格が下げに転じるのは時間の問題とみられる。例えば、ガソリンについて言えば、年末までに、リットル当たり10円程度下落する可能性がある。現状、日本のCPIはガソリンや灯油を主体としたエネルギー価格の上昇によって0.5%も嵩上げされている。原油価格の下落によって、そうした嵩上げの効果が剥落すれば、CPIがマイナスの領域に逆戻りしても不思議ではない。

 日銀は低金利の長期化による弊害(不動産バブル再発)を懸念し始めており、段階的な金利水準の引き上げが適当であると考えている模様だ。しかし、日銀がCPIの動きを無視して利上げできるわけではない。

 それは、日銀の信頼が回復していないからである。1990年代初のバブル崩壊と2000年8月のゼロ金利解除を「政策の失敗」と位置づけている政治家が依然として多数存在することを忘れてはならない。日銀の独立的な政策判断は、これからもしばらくの間は、政府に黙殺されて行く可能性が高い。従って、いかに地価が上昇しようとも、日銀が追加利上げを模索することは当面不可能とみられる。日銀による追加利上げは、「来年秋以降」に後ずれする公算が高い。

 このため、都市部を中心に不動産市況の上昇基調に拍車がかかる可能性が出てきたと言える。銀行預金金利が上昇しなければ、不動産向け投資ファンドなどへの資金流入が加速するとみられるからだ。株式投資家にとっては、不動産セクターに妙味がありそうだ。

 

以 上
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