2006年09月29日

白川 浩道
安倍政権誕生で株価が上がるわけではない


 小泉政権の終盤では、「郵政民営化と公的金融の縮小」といったテーマが打ち出され、構造改革期待の高まりを反映した海外からの資金流入で株価が大きく上昇した。
 しかし、安倍政権には、残念ながら、パンチ力のある「新たな政策テーマ」があるわけではない。安倍内閣の経済閣僚の顔ぶれをみても、経済政策を大局的に語るというタイプは見当たらず、日本経済のあるべき姿やそのグランド・デザインが示される可能性は低い。最悪の場合、現状維持あるいは改革後退のイメージが出てしまうリスクもある。
 従って、外人が新政権誕生を材料に日本株に投資する可能性は低く、現状では、安倍政権誕生が株価にプラスであるとの議論は、残念ながら、しにくい。

 まず指摘したいのは、安倍内閣の経済閣僚がそれぞれの分野に精通した専門家で構成されているということである。彼らは、言うなれば、政策提言集団ではなく、政策実践集団である。実務家、官僚型が多いということだ。
 その意味では、新内閣に、思い切った政策のアイデアを期待することは無理であろう。実務派集団からは、与えられた仕事を淡々とこなすというイメージしか出てこないのではないか。

 やや独断の部分もあるが、以下で主要閣僚の専門分野を確認しておこう。

尾身財務大臣:企業技術革新、科学技術振興、IT
甘利経済産業大臣:都市政策、企業統治、知的財産
菅総務大臣・郵政民営化担当:地方自治
塩崎内閣官房長官:企業統治論、企業会計、会計監査
山本金融・再チャレンジ担当大臣:行政法、民事再生法、企業情報公開
大田経済財政政策担当大臣:財政学、税制

 さて、そうした全体評価を前提に、具体的にどのような政策が出てくるのか、現時点での予想と評価を示しておく。

(1)財政政策
 来年度について、減価償却可能率の引き上げ(95%→100%)による実質法人税減税が決定される可能性がある。これは、株式市場にとってプラスの話ではあるが、減税規模はさほど大きなものではなく(2000〜3000億円か)、実際の株価押し上げ効果は不透明である。
 一部に、法人税率(現状30%)の引き下げを期待する向きもあるが、少なくとも来年度に限った場合、その可能性は極めて低い。なぜなら、法人税率引き下げは消費税増税との“抱き合わせ”となるものとみられるが、来年夏に参院選を控えている中で、消費税増税論が来年秋までは封印される見通しにあるからである。
 株式譲渡益、配当所得に対する軽減税率適用(10%、2007年末ないし2007年度末まで)の期間延長が決定される見込みながら、それ以上の優遇策が出てくることは考えられない。
 なお、小泉政権では先送りされてきた社会保障(公的年金、医療)と税制の一体的な改革は、安倍政権でもあまり進まないだろう。来年の選挙を前に、給付削減、増税のいずれも打ち出せないからである。財政構造改革面で、外人を唸らせるような前向きの政策は出てこない。

(2)金融(金利)政策
 経済閣僚の中に金融政策論(例えばインフレ目標論)のプロはいないため、金融政策論は、もっぱら、自民党によって展開される可能性が高い。キーパーソンは中川幹事長であろう。
 自民党は、財政再建との関係から、日銀に対して低金利政策の長期化を要請するものと予想され、実際に低金利政策が長期化するとの期待が生まれれば、株式市場は基本的には好感するものとみられる。
 しかし、ただ漫然と低金利政策が維持されるだけで外人に受けるとは思えない。外人は日本の低金利政策に既に飽きてしまっているからだ。外人は、低金利政策が修正されるような、力強い景気回復の方を期待しているのである。

(3)金融システム政策
 金融システムについては、郵貯銀行、政府系金融機関、メガバンク、地域金融機関の業務範囲をどのように整理するのかという、いわば「金融再編最終章」に入った。しかし、新内閣でそのグランドデザインがきちんと描かれるのか、不安を覚える。
 さらに、政府系金融機関の存続や郵貯銀行の業務肥大化によって民間銀行の収益環境が厳しくなるリスクすらある。市場がそうしたリスクを敏感に感じ取れば、株価は下落するかもしれない。安倍政権は、小泉政権が道筋をつけた、公的金融改革を頓挫させてしまうかもしれず、懸念される。
 なお、消費者金融改革については、貸金業の上限金利の引き下げに5年間をかけるという金融庁案の法令化が淡々と進捗する一方、多重債務者救済策の検討が進むであろうが、現状維持型の政策運営と手厚い消費者保護というイメージが強まれば、市場では「構造改革の遅延」と受け取られる可能性がある。

 

以 上
TEL: 03-5297-7311 - FAX: 03-5297-7314
Copyright © 2000 CMD Co., Ltd. All rights reserved.
Prev Index Next