2007年03月26日

白川 浩道
株式市場の楽観ムードは危険


 前回は、2月最終週以降の世界的な株価下落の真犯人が日銀であると書いた。2月21日の日銀の強引な追加利上げが市場流動性の先行きに対する不透明感を高め、その結果、いわゆる“リスク・マネー”(リスクを取って新興市場国の株式や商品に投資するマネー)が縮小し、世界的に株価が下落したと指摘した。

 しかし、その後、株価は、全世界的に落ち着きを取り戻し、同時株安が始まる直前のピークからみた下落率は、欧米が2〜3%、日本が4%、新興市場国の代表格であるBRICs諸国(ブラジル、ロシア、インド、中国)が2〜8%(中国上海株を除く)と、3月上旬にかけての最悪期に比べて、ずいぶん縮小した。一時期、世界同時株安の主犯とみられていた中国上海株については、なんと2月下旬の高値を上抜けしており、高値を更新している。

 筆者には意外であるが、日銀の追加利上げを発端にした世界同時株安は急激に終息しようとしている。世界の株式市場のムードは、「慎重」から「楽観」に再び変わろうとしているようだ。

 世界の株式市場で「楽観論」が復活しつつあるのはなぜだろうか?世界景気の見通しが依然としして“良好”であるからだろうか。その可能性はある。あるいは、市場は、世界の金余り状態は簡単には解消されず、株式を中心としたリスク資産に世界の余剰資金が流れ込む構図は変わるまい、とみているのだろうか。その可能性もあろう。つまり、世界の株式市場の参加者は、世界景気は健全で、金余りも続きそうだから、日銀が追加利上げを決めた程度で騒ぎ立てることはない、と考えているようである。

 しかし、筆者は、こうした「楽観論」に大きな危険を感じる。その理由は大きく分けて2つある。

 まず、第1に、米国経済の脆弱性が上昇しており、世界景気の先行きは必ずしも明るくない。

 米国経済の脆弱性が高まっているのは、住宅価格の下落が当面継続する可能性が高いからである。住宅価格の下落が継続する理由は単純である。ここ数年、住宅価格が上昇し過ぎたからである。一般の個人にはどうにも手が届かない水準にまで住宅価格が上がってしまった以上、住宅販売は当面減少傾向を辿らざるを得まい。その結果、住宅価格は、向こう1〜2年、下落の一途を辿る可能性がある。住宅価格が下落すれば、個人を中心とした借り手の信用リスクが大きく低下するため、米国の銀行は与信態度を引き締めざるを得ない。それが企業倒産や個人破産を招くことで米国景気は減速する可能性が高い。

 市場には、米国金融当局が、場合によっては近い将来、金融緩和に踏み切るのではないか、と予測する向きもあり、これが世界景気楽観論を支えている面はある。しかし、日本の経験を思い出して欲しい。一旦、資産バブルが崩壊し、資産デフレが発生してしまうと、少しくらい金利を下げても焼け石に水であり、景気減速を止めるのは容易ではない。

 第2には、日銀の金融引き締めは始まったばかりであり、連続的な利上げが想定される。日銀が連続的な利上げを行うのは、国内土地バブルの再来を恐れているからである。最近公表された全国公示地価が示したことは、商業地価の上昇は、東京、大阪、名古屋だけではなく、ほぼ全ての人口100万人都市に広がっているということである。1980年代の経験は、都市部の商業地価に火がつけば、いずれ、その住宅地価も上がり始め、最後には、中小地方都市も含めて地価全般が上昇するというものである。日銀は、こうした1980年代の地価バブル再来を阻止するべく、都市部・商業地の地価が着火した今の段階から利上げを加速させる腹積もりにある。

 日銀による利上げが継続すれば、円市場で資金を借り、それを米ドルなどの外貨に換えて世界のリスク資産に投資していたファンドにとっては資金コストが嵩むことになる。その結果、彼らは、リスク資産を売却し、円での借り入れを返済しようとするだろう。その帰結は円高を生むが、円高と国内金利高に直面した日本の個人は、海外資産の保有を減らす一方、国内銀行預金にシフトするだろう。日本の個人貯蓄が、国内銀行預金から海外資産に流れるという、これまでの資金フローが逆回転を始める可能性が高い。その結果、世界的な金余り現象は解消に向かう。

 米国では住宅価格の下落が始まったというのに、日本では地価が上がり始めた。これは、なんとも皮肉な話である。米国景気が住宅デフレによる急減速という爆弾を抱える中で、これまで世界の金余り現象に一役買ってきた日本が金融を引き締めるという、最悪のコンビネーションが今まさに生じようとしているからである。

 引き続き、株式運用には慎重であるべき、と考えている。

 

以 上
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