2007年04月25日

白川 浩道
根が深い日本株の弱さ


 筆者は、ここ数ヶ月の間、株式投資には慎重であるべきと考えてきた。実際、株価は2月の下旬に18,000円を超える高値を付けて以来、弱含んでおり、17,000円台の前半で一進一退を繰り返している。

 しかし、自分の見通しが正しかったと喜ぶわけには行かない。なぜなら、株価の冴えない動きは日本特有の現象となりつつあるからである。つまり、日本株が世界的にみてアンダーパフォームしているのであり、これは想定外である。

 なぜ日本株だけが冴えないのかを考える前に、データを確認しておこう。4月24日の終値でみた場合、各地域の株価指数が2月下旬の高値と比べてどのような位置にいるかをみると、欧米は1〜4%高、韓国・ブラジルが6%高、中国が2割高、ロシアが横這い、インドが2%安、そして日本が4〜6%安である。インド株のパフォーマンスも確かに悪いが、3月上旬にかけての世界同時株安で14%も下げたことからすれば、かなり水準を切り返したといえる。従って、日本株の弱さは際立っている。

 さて、日本株が世界中の投資家から見放されている理由は何か。

 景気であろうか。つまり、景気の脆弱性が問題なのであろうか?この問に対する答えはノーである。なぜなら、米国経済や中国経済と比較した場合、日本経済の方が相対的に健全であると言える可能性が高いからだ。

 米国経済は、昨年にかけての過大な住宅投資の調整局面にあるほか、家計貯蓄率も2年近くマイナスを継続させており、景気の脆弱性は高い。中国経済は、国内固定資産投資が再加速する中でオーバーヒート気味であり、急減速のリスクが見え始めている。他方、日本経済に過剰投資は見当たらず、家計貯蓄も緩やかな拡大傾向を継続させている。景気が崩れるリスクは米国や中国に比べて低い。

 従って、日本株のアンダーパフォーマンスは、景気以外の何らかの要因によって日本株への投資意欲が低下していることを反映したものと考えざるを得ない。そして、その何らかの要因としては、[1]安倍政権における経済構造改革の後退、[2]日本企業の魅力の低下、が有力であろう。

 そもそも、安倍政権発足後、経済構造改革の推進力は低下している。個人の所得格差や景気の地域格差が広がる中で、政府の経済政策は弱者に優しいものに変わりつつある。思い切った歳出削減が忌避される一方で地方交付税が増額される傾向にあるほか、パートタイマーの待遇改善の法制化など、低所得層の所得水準引き上げが最重要政策課題として浮上している。さらに、金融改革については、本年10月からの郵政民営化は決まっているものの、それを起爆剤に国内地域金融機関の再編がどの程度進むのか、予断を許さない。こうした状況において、外人投資家が「日本が市場メカニズム型の経済に本当に変貌しようとしているのかわからない」という不信感を招いたとしても、不思議はない。

 日本企業の魅力が低下していることも否めない。特に懸念されるのが、生産性の低下である。高齢化の進展(いわゆる団塊世代の退職年齢への接近)や自発的失業の高止まり(就労意欲の低下した若年層の増加)などによって企業が思うように人材を確保できなくなりつつあるのは事実であり、企業の人手不足感も着実に強まっている。

 しかし、人材を確保できないのではないかという企業の焦りが、新卒採用者の急増といった日本的な横並び現象をもたらしており、これが結果として、質の低い労働者の大量雇用による労働生産性の低下をもたらしつつある。

 実際、経済の成長速度が2%程度で変わらないのに、雇用者数は1%をやや上回る速度で拡大している。つまり、雇用者1人当たりの生産性は1%に満たないということである。欧米先進国の労働生産性の伸びは2〜3%はあるとみられ、大きく見劣りする。

 今後、政府の要請などもあって、企業が賃金水準を引き上げなくてはならなくなった場合、企業は過剰雇用と賃金引上げのダブル・パンチを受けて、収益性を大きく悪化させることになるだろう。企業が質の高い従業員を安い賃金で活用できる時代が終わろうとしているのであれば、日本企業に投資する魅力は減る。単純に言えば、廉価な労働に恵まれている新興市場国に投資した方が良いということになる。

 日本には鉱物資源があるわけではない。また、米国のように人口が増えているわけではなく、欧州のように持続的な価値上昇を見込めるような通貨を持つわけでもない。そんな国の資産を海外に買ってもらおうとするならば、思い切った財政・金融構造改革と労働市場改革による社会・経済システムの一大変革を断行すべきであろう。しかし、現下の日本に改革の意気込みは感じられない。

 構造改革の停滞や企業の生産性の低下が日本株のパフォーマンスを悪化させている根源であるとすれば、問題の根は深い。日本株への投資をさらに慎重化させた方が良いかもしれない。

 

以 上
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