2000年11月02日

白川 浩道
国のバランスシート開示は何を意味するのか

 大蔵省は、先般、国の貸借対照表を開示した。国が約束した公的年金支払い全額の現在価値を計上した場合、昨年3月末現在で780兆円のネット負債に陥っていることが示された。

 ここで興味深いのは、このネット負債額がほぼ公的年金の負債額に一致していることである。逆に言えば、公的年金部分を除けば、国の債権・債務は概ねバランスしている。郵貯や簡保資金、国債発行による負債が、有価証券、貸付金、有形固定資産という形での資産にほぼ見合っている。

 無論、国の資産には、そもそも市場性の低い固定資産や、価値そのものが過大評価されているものも含まれているとみられるが、その点に目をつぶれば、公的年金の債務額をどう評価するかによって、国のネット債務が決まる格好になっている。ここで直観的にわかることであるが、公的年金に関する債務は、過小評価されている可能性が大きいということである。

 そもそも、年金債務については、将来の推計人口や運用利回り等によって大きく変化し得る。特に出生率の前提が甘い場合には、年金債務は大きく膨らむことになる。極めて大雑把な議論であるが、国のネット債務=公的年金に関するグロスの債務は1000兆円規模と考えておけば良いのではないか。

 さて、このように公的年金の債務が1000兆円であるとして、この額から、現に国が保有する積み立て金の150兆円を除いた800兆円強という額は、現在、国民が国に対して保有している公的年金に関する債権ということになるが、実際には、国民がこの800兆円分の便益を受けられるわけではない。保険料率の予定以上の引き上げ、給付年齢の引き上げ、給付額の引き下げ、消費税増税などが待っているからである。

 簡単に言えば、国がネット800兆円の債務を履行できない可能性が高いということである。問題は、国民が、自分たちの期待債権額を回収できないと予想した場合、どのような行動をとるかである。ごく単純に考えれば、将来に亘って得られたであろう年金給付の便益が減少する部分を、みずからの貯蓄によって賄おうとする可能性が高いのである。今回の国のバランスシート開示は、年金財政が破綻しかかっていることを示したものであるが、要するに、国民の金融資産蓄積意欲を高める結果になるとみられる。

 仮に年金給付から受ける便益が半分になると国民が考えれば、今後50年程度の期間に400兆円分の金融資産を蓄積しようと考えるかもしれない。年間7、8兆円のペースで金融資産地蓄積を増加させるイメージである。これは年間の個人消費の3%にも及ぶ大きな額である。消費の長期低迷→景気長期低迷→財政破綻リスクの高まり、といった悪循環から抜け出せる道はみえない。

以 上  
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