2007年08月21日

白川 浩道
株価は二番底を付ける展開へ


 米国のサブ・プライム・ローン問題が世界の株式市場を震撼させた。ヘッジ・ファンドの破綻が欧米でクレジット・クランチを招き、世界景気が大きく減速するという懸念が台頭したからだ。実際、欧米のヘッジファンドにはサブ・プライム・ローン絡みの商品で大量の運用損を抱えている先があるが、銀行からの融資が止まるなどファンディングに支障が出始めたことから、換金売りを迫られた模様である。

 日本株もこうした換金売りの流れに押され、大きく下落したが、日本株の下落率は欧米のそれを上回った。すなわち、7月の高値から直近安値までの下落率は、ニューヨーク・ダウやドイツDAX指数では8〜10%であったものの、日経平均では16%強となった。

 日本株の下落率を相対的に大きくしたのは、いわゆる円キャリー・トレードの巻き戻しを背景にした円高の進行である。ファンドの換金売りは同トレードの巻き戻しを伴うため、円高が進行するが、その結果、日本企業の業績に対する期待が大きく悪化するという悪循環を生んだ。

 さて、今後の展開はどうなるのであろうか。

 一部には、“先週金曜日に決定された米国の公定歩合引き下げによって世界の株式市場は安定化する”という見方がある。しかし、世界の株価は二番底を付けに行く可能性が十分にあり、油断は禁物である。その理由は、米国の当局が公定歩合を引き下げても金融機関の破綻リスクが解消されるわけではなく、市場の動揺が収まるとは考えにくいからである。

 確認しておかなくてはならないことは、世界的なクレジット・クランチ懸念の元になっている金融市場(インターバンク市場)の混乱は、市場における資金量が足りないことではなく、資金の流れが悪くなっていることを反映したものである、ということだ。市場を人体に例えれば、心臓(中央銀行)から血液(資金)は供給されているが、血栓(市場の不安心理の増大)によって血流が悪くなっている(流動性が低下している)状態にあると言える。

 実際、ロンドン・インターバンク市場で取引されている米ドルの3ヶ月物金利とFRBの政策金利であるフェデラル・ファンド・レートの3ヶ月物予想金利の格差(米ドル市場の流動性を表す代理変数、拡大すれば、流動性の低下を意味)は8月9日に大きくジャンプした後、公定歩合引き下げ後も拡大傾向を続けており、金融市場の“メヅマリ状態”は改善するどころか、むしろ悪化している。

 “メヅマリ状態”の根源である市場の不安心理の増大は、サブ・プライム・ローンの焦げ付きが個別金融機関のバランスシートにどの程度のダメージを与えているのかはっきりしないことを背景としている。金融機関が疑心暗鬼になることによって資金の融通が滞っているわけで、最悪の場合、大手金融機関であっても資金繰りに窮し、破綻する可能性があると言えよう。

 こうした事態を回避しようと思ったら、政策当局は、政策金利の引き下げではなく、個別金融機関の処理を行わなくてはならない。要するに、サブ・プライム・ローン関連の投資で最も大きな損失を被っている先を個別具体的に洗い出した上で、そこに直接的な支援(資本増強策)を講じる必要がある。血栓そのものを外科的に取り除かない限り、血流が改善することはないのである。

 しかし、外科的療法を“予防的”に採用することはかなり難しい。第1に、金融機関が自ら破綻の可能性を宣言することはない(どこが問題の金融機関か簡単にはわからない)。そして第2に、破綻していない個別金融機関を支援することについては、過度な救済との批判を受ける可能性が高い。従って、歴史も教えるところであるが、外科的療法は金融機関が実際に破綻するまでは行えないのである。

 残念ながら、サブ・プライム・ローン問題の膿(ウミ)が出切ったわけではなく、欧米の金融不安がこのまま解消されていくわけでもない。世界の株式市場のセリング・クライマックス(株式売り圧力のピーク)はまだ来ていないと考えるべきであろう。

 

以 上
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