2007年11月19日

白川 浩道
米国は金融不況に突入?


 FRB(米国連邦準備制度理事会)が2度にわたって利下げしたにもかかわらず、米国の株式市場は軟調だ。これが世界中に伝播し、株価の不安定な動きを招いている。しかも見通しは暗い。米国の金融システムに再生の目処が立たないからである。

 米国経済はマネー経済である。日本やドイツのように製造業の技術力によって成長している経済ではない。銀行や証券会社が供給するマネーの拡大によって国民の購買力が上昇し、その結果、個人消費主導で経済が回る。これが米国経済の基本的な仕組みだ。そうしたマネー経済の中心的な存在である銀行や証券会社が大量の不良債権・資産を抱えて機能不全に陥れば、米国景気は高い確率でリセッション(景気後退)に陥いる。

 米国経済がそうした危機を乗り切れるのか、現状では全く不透明である。従って、世界の株価が本当に安定するのかどうか、判断できない。その意味で当面は株式投資に慎重な姿勢で臨むしかないだろう。

 サブ・プライム・ローンというと低所得者に対する特別な貸付といったイメージが強く、その不良債権化についても、「全体として健全に機能している金融市場の局所的な目詰まり」といった比較的軽いノリで捉えられてきた。FRBや米国財務省、米国金融業界の間で、つい、この夏場まで楽観論が蔓延していたことはその証左である。

 しかし、現実にデータをみればわかることであるが、サブ・プライム・ローン問題は一つ対応を間違えば、米国の金融システムをその根幹から揺るがしかねない大きな問題である。以下ではいくつかの数字を挙げて、問題の深刻度合いを示そう。

 まず、サブ・プライム・ローンの市場残高は約1兆4000億ドル(110円換算で154兆円程度)と推計されるが、そのうち、既に破綻している債権が約800億ドル(9兆円弱)、破綻予備軍である延滞債権が約2000億ドル(22兆円程度)存在するとされている。さらに、政府保証が付いていないプライム・ローン(市場規模約7兆8000億ドル)のうち、約600億ドル(7兆円弱)は破綻債権とみられている。従って、破綻予備軍であるサブ・プライム・ローンの延滞債権の全てが破綻債権に移行した場合、破綻債権額は全体で38兆円に達する。

 大雑把に言えば、米国の住宅ローン債権のうち30兆円超は(少なくとも短期的には)回収の見込みが立たない不良債権となっている可能性が高い。さらにこの額は景気の鈍化に伴って着実に増加する。来年に回収不能債権額が40兆円を超えても不思議ではない。

 この30〜40兆円という破綻債権の規模は大きいのか、小さいのか。住宅債権が証券化され、世界中の様々な投資家によって分散的に保有されているのであるから、この程度の損失は吸収可能なのではないかとの見方もある。しかし、米国商業銀行と欧米の大手証券会社の資本を合計しても160〜170兆円程度にしかならないことからすれば、30〜40兆円という額は馬鹿にならない。単純な算数だが、不良債権評価損が40兆円ならば、これは金融機関資本の4分の1だ。資本の4分の1が痛むとなれば、これは十分に危機的である。金融機関が不良資産をまともに処理した場合、世界的にそれなりに名の通った金融機関の一角で過小資本行が出現する可能性が高いことになるからだ。

 重要なことは、不良債権の評価損がこれだけ大きな額に上ってしまうと、利下げによって問題を解決を図ることはほぼ不可能に近いということである。米国商業銀行に限ってみた場合、13〜14数兆円の不良債権評価損があると推計されるが、銀行がこれだけの規模の不良債権評価損を貸出収支の改善で処理できるようにするためには、追加的に2〜3%の利下げが必要になる可能性が高い。FRBは政策金利を5.25%から4.5%に引き下げたが、さらに2%前後まで引き下げないと銀行は不良債権を十分には処理できないのである。

 しかし、FRBが思い切った利下げというオプションを取り得ないことは明らかだ。利下げによってドル相場の下落を招けば、米国市場から逃避した資金が原油先物市場や国際商品市場に入り、原油高、資源高を経由して米国経済ひいては世界経済をスタグフレーション(不景気とインフレの同時発生)に突き落とすからだ。

 こうした手詰まり状態を打開するほぼ唯一の方法は、大規模な公的資金の投入である。公的資金によって不良資産を買い上げるとともに、評価損の計上によって過小資本に陥った金融機関を救済する。これしかない。

 しかし、日本の経験を振り返ればわかるように、金融機関への公的資金投入には大きな政治的軋轢(あつれき)を伴う。日本のケースと同様、現在、米国では貸し手責任論が強く、政府も借り手保護には前向きだが、金融機関救済には二の足を踏んでいる。米国は、終わりの見えない不良債権処理という暗いトンネルの中に迷い込んだ可能性がある。日本では、金融界、当局ともに荒療治を嫌い、不良債権処理を先延ばしした結果、傷口が深くなり、資産バブル崩壊から金融システムの安定までになんと10年以上をも費やした。日本の経験を踏まえ、米国が迅速な対応を行うことをひたすら祈るのみである。

 

以 上
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