2008年02月07日

白川 浩道
市場は米国景気後退シナリオに傾き過ぎ


 筆者は米国景気に悲観的である。 米国では昨年秋から住宅価格の下落が始まっており、その結果、これまで住宅を担保に消費者ローンを借りてきた米国の個人が資金返済を求められたり、資金繰りに窮する可能性が高いからである。

 しかし、足元の株式市場はやや行き過ぎである。 米国経済が足元から景気後退局面(連続的なマイナス成長局面)に突入したことを想定しているからである。 筆者がいくら悲観的であっても、そこまでは予想しない。 米国景気は低空飛行をするにせよ、まだ沈むわけではない。

 まずはデータを丁寧にみることだ。 すなわち、足元の米国の雇用、賃金のデータであるが、これはまだ景気後退を示唆しない。 08年1月の米国雇用統計をみると、非農業部門全体では1.7万人減(12月は8.2万人増)となった。 2003年8月(4.2万人減)以来の前月比減少である。 しかし、民間部門では0.1万人増(12月は5.4万人増)と減少を回避した。 重要なことは、サブ・プライム問題の震源地に近い広義金融業(不動産業を含む)や建設業の雇用が趨勢的には減少傾向にあるものの、小康状態になりつつあることである。 さらに、小売業の雇用は前月比小幅の増加(1.1万人増)となっており、雇用調整に至っていない。 米国の雇用市場が調整局面にあるのは事実であるが、調整のスピードは、依然としてマイルドである。 この結果、完全失業率は4.9%と0.1%改善した。

 また、足元の米国企業関連データでは改善もみられる。 例えば、1月の米国企業購買担当者に対するサーベイ結果をみると、製造業、非製造業とも輸出関連の新規受注インデックスは改善している。 グローバルに展開している米国企業の景況感は、国外では引き続き健全な状態にあるのだ。 国内投資が拡大局面にある新興市場国や途上国経済の成長が続いているということである。

 さらに、ドル安の恩恵も考える必要がある。 米ドルが下落すれば、ドル・円相場との相関が高い日本の株価がさらに下がるのではないかと懸念する投資家もいることだろう。 しかし、ドル安が悪いことばかりをもたらすわけではない。 ドル安の1つのメリットは米国の輸出を刺激するというものであるが、ドル安が世界経済にもたらす最大のメリットは、やはりなんと言っても、ドル・ペッグ国(自国の対ドル為替相場を固定的に運営している国)による金融緩和であろう。

 ドル・ペッグ国とは、中国、中東諸国、そして日本である。 対米輸出依存度の高いこれらの経常黒字国は、“米国景気減速による輸出数量の減少とドル安”というダブル・パンチを回避するために、米国が利下げをし、ドル安圧力が強まれば、自分達も利下げをし、ドル安圧力を緩和しなくてはならない。 であるから、米国が利下げを続けていれば、これらの国が金融を緩和し、世界中にマネーをばら撒くことになる。 これが世界経済を刺激する。

 最後に米国の景気対策である。 世界の株式市場が“米国経済の先行き不安感”を背景に調整を深めた場合、世界経済の番人である米国政府がこれを無視し続けられるわけがない。 大統領選が徐々に佳境に入ってくる中で米国国内世論の関心が景気対策に急激に傾いている点も合わせて考えれば、結局、米国議会は思い切った景気対策を導入せざるを得なくなる。

 繰り返しになるが、世界の株式市場は世界景気見通しにやや悲観的に過ぎる。 景気鈍化と景気底割れを混同してはならない。

 

以 上
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