2000年11月08日

白川 浩道
追加利上げは日経平均17000円回復までない

 10月31日、日銀は、「経済・物価の将来展望とリスク評価」としたレポートを公表、その中で、政策委員による物価と成長率の00年度見通しを示した。日銀が金融政策の透明性とアカウンタビリティの向上を狙って実施した初の試みであり、その内容は大いに注目された。経済見通しとレポートのポイントを整理すると、以下のようになる。

  1. 成長率の見通しについては、最も弱気な見通しが1.5%、最も強気な見通しが2.3%、平均でみて2%強のイメージとなった。ほぼ予想通りの内容と言って良い。ゼロ金利解除を正当化するには「十分な」数字である。

  2. また、委員の平均でみて2%超の見通しが示されているということは、多くの委員が、7−9月期以降、来年1−3月期にかけての3四半期のうち、2四半期は小幅のプラス成長を見込むとともに、前年比ベースでは平均2.5%程度を予想していることになる。「潜在成長率は1%強」という日銀の見方を前提とすれば、「年度後半にかけて前年比で2%台半ばの成長が達成されること」は、「需給ギャップがそれなりに縮小すること」を意味する。安定的な物価見通し(CPIの全員見通しで−0.5〜−0.1%)が示されていることと合わせれば、「数字上」は、追加利上げの展望が不可能ではないと評価される。

  3. しかし、「リスクの評価」は予想以上にダウンサイド・リスクを重視したものとなっている。文章上は、「下振れ、上振れの両方向のリスクを念頭に置く必要がある」と述べているが、内容的には、以下の点から、明らかに下振れリスクに力点があるとみられる。
    • 世界経済後退のリスクについて、米国のハードランディングではなく、IT依存の高いアジア経済変調のリスクを意識している。これまで以上により具体的なリスク評価である。
    • 米国発の世界的な株価調整リスクを、「過度の成長期待の修正」といった形でかなり強く意識している。資産バブル崩壊を経験した中央銀行らしいコメントである。
    • 海外のリスクに加え、国内の構造的な下振れリスクに言及している。これはやや意外であった。特に、金融機関のリスクテーク能力が資産価格の低下や倒産の増加で再び減退すること、さらにこうした金融面での不安が国民の将来不安(消費減退)を招く可能性を気にしている。ゼロ金利解除は、株安や倒産増加の直接的な原因ではない。しかし、こうしたリスク評価を日銀が行うことは、8月に実施したゼロ金利解除との自己矛盾を指摘されかねないような表現である。日銀として、かなり踏み込んだダウンサイド・リスクの指摘を行ったものと評価して良かろう。


  4. 総合すれば、予想のとおり、「数字は強め」、「文章は弱め」の内容となった。日銀は、とりあえず、市場に対して「ニュートラル」のメッセージを発したとみられる。今後のポイントは明らかに株価である。株価水準は日銀のターゲットではない。しかし、経済のダウンサイド・リスクが株安に凝縮されている以上、株価を無視した政策運営は有り得ない。追加利上げは、世界経済のソフト・ランディングと国内金融システムの脆弱性払拭が展望され、日経平均が17000円程度に上昇するまで、打ち出すことはできないであろう。
以 上  
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