2008年03月05日

白川 浩道
再燃した米国金融不安の行方


 前回のレポートでは、“世界の株式市場は米国景気の先行きに悲観的に過ぎるのではないか”と書いた。経済指標の動きを丹念に追うと、米国景気が鈍化する可能性は高くても、後退局面に突入するリスクは依然として小さい、とみられたからである。

 こうした見方は約1ヶ月経った今も変わらない。ロシア、中東欧、ラテン・アメリカ、中東産油国など、新興国、資源国の景気は設備投資を中心に好調を維持しており、米国経済も輸出拡大という形でその恩恵を受けているからである。米国景気は住宅市場の調整を受けて減速はするものの、失速する可能性は低い。

 しかし、世界の株式市場は疑心暗鬼の状態からなかなか抜け出せていない。それは、足元の経済指標は底堅いが、年後半にかけ、米国で本格的な信用収縮と金融市場の機能麻痺が生じるのではないか、との懸念が消えないためだ。

 こうした市場の懸念については、経営難に陥っているモノラインの再建策がまとまらないことが最大の背景となっている。モノラインとは金融専門の保険会社で、近年は、モーゲージ債権の証券化商品に対する保証業務の拡大によって急成長してきた。サブプライム・ローンの不良債権化によって保証負担が急激に増大したため、経営状態が悪化し、資本不足が指摘されるとともに、経営再建(具体的には資本の増強)が急務となっている。

 その再建が失敗に終わり、モノラインの格付が大きく引き下げられたり、あるいは最悪の場合、破綻するようなことがあると、金融市場はかなり混乱する可能性がある。モノラインによる保証(つまり保険)という安全弁がなくなれば、銀行は証券化商品の価値下落による損失をもろにかぶることになり、銀行の資本基盤が揺らぐ。また、モノラインが倒産すれば、保険そのものがなくなるわけであるから、銀行は証券化商品に手を出すことができなくなる。その結果、モーゲージ・ローン市場そのものが縮小することになる。

 モノライン再建策が頓挫すれば、「銀行の不良資産処理は峠を越えた」という認識が根底から覆されることになるわけで、世界の株式市場はそうしたリスクに怯えているわけだ。

 なぜ、モノラインの救済が進まないのであろうか。それは、米国財務省、FRB(連邦準備制度理事会)といった政策当局が公的資金(税金)を使った金融業界支援に依然として極めて後ろ向きであるからである。

 例えば、ポールソン財務長官は、2月28日にシカゴで行った演説において、税金を使って銀行や投資家を救済する考えはないことを改めて強調した。一部には、モノラインは保険会社であり、投資家でも、投機家でもないから、政府の救済の対象になるとの解釈もあるが、同長官は「政府の救済策は住宅ローンの借り手対策に焦点を絞る」とも発言しており、モノラインが公的資金による救済の対象になる可能性は極めて低いと考えるべきであろう。

 現在、大手銀行、格付会社、モノラインの3者が協議している救済策の落としどころは、大手銀行によるモノラインの増資引き受けであるとみられるが、政策当局の無関心ぶりを受けて、銀行が救済に躊躇している可能性がある。なぜなら、政府が公的資金の投入によるモノライン救済に最後まで乗り出さなかった場合、銀行の負担が膨大なものになってしまう可能性があるからである。

 モノラインの経営破綻が銀行の資本基盤を直撃することはわかっており、銀行としてモノラインの経営悪化を見過ごすことは容易ではない。しかし、銀行が、「政府が助け舟を出さないのであれば、自らは価値の目減りが著しい資産担保証券の保有を大幅に削減しつつ、モノラインの経営破綻に目をつぶる」という究極の選択肢を取ることもあり得るのだ。

 いずれにせよ、米国の政策当局がモノラインに対する公的資金投入の必要性を認めるまでは、金融市場のセンチメントは改善しない可能性が高く、投資家は、この点に関する米国当局の動きを丹念に追いかける必要がある。

 

以 上
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