2008年03月31日

白川 浩道
再燃した米国金融不安の行方・パート2


 前回のレポートでは、「経営難に陥っているモノライン(金融専門の保険会社)の再建策がまとまらないため、米国の金融不安懸念が消えない」と指摘した。

 しかし、モノライン問題の進展をみる前に、今度は、大手証券会社ベア・スターンズの経営危機が表面化し、大手銀行であるJPモルガンによって買収されるといった大事件が起きた。モーゲージ関連証券化商品の不良化が進み、市場が機能麻痺に陥っている中、同商品を大量に保有する証券会社の資金繰りが大きく悪化していることが示されたわけだ。

 このため、中央銀行に当たるFRB(連邦準備制度理事会)は、資金繰り支援を目的に、従来はなかった証券会社に対する直接的な資金供与のスキームを急遽導入するはめになった。さらに、290億ドル(3兆円弱)もの資金を投じ、JPモルガンがベア・スターンズから受け継いだ資産(不良資産を含む)をペーパー・カンパニーに移管させた。つまり、当局であるFRBはペーパー・カンパニーを経由して間接的にベア・スターンズの資産を買い取ったのである。

 こうした状況に我々はどのように反応すべきであろうか。「大手証券会社ですら経営破綻のリスクにさらされているのであるから、米国は金融危機の入り口に立っている」と悲観すべきであろうか。あるいは、「事態を重く見た当局が間接的に不良資産の買い上げまで始めたのであるから、早晩、米国の金融システムは安定化する」と楽観すべきなのか。

 筆者の現時点での見解は、ずばり、前者である。つまり、米国は少なくとも短期的には金融危機的な状況に追い込まれつつある、と判断される。なぜなら、今回のベア・スターンズの救済劇は、あくまで破綻危機に直面した金融機関に対する"事後的な処置"であって、金融システムの健全化を推進するための"事前的、予防的なな措置"ではないからである。

 より単純に言えば、破綻危機に直面していない金融機関に対して税金や中央銀行の資金を投入し、事が起こる前に金融システムを安定化させてしまおう、という動きは出てこないとみられる。

 米国において金融機関に対する"予防的な税金投入"が進まない背景として、以下の2点を指摘できよう。

 第1に、米国では、破綻していない、生き残れそうな金融機関に税金を投入し、政府がその株主になることは市場資本主義という大原則に反する、との感覚が強い。政府が資本主義の象徴である金融機関の株主になる時は、その金融機関を市場の力によって破綻に追い込んだ場合、金融システム全体あるいは預金者に多大なコストが生じるというケースに限られる。経営の悪化した金融機関は自ら努力してバランスシートを健全化すべきである、という基本中の基本とも言えるコンセプトを米国政府が簡単に放棄することはない。従って、リストラに失敗し、市場の評価も得られずに経営が悪化した金融機関の中には退出を余儀なくされる先が出てくるということである。これが、短期的に市場の不安心理を煽る可能性がある。

 第2に、破綻していない金融機関に対する税金投入は米国民が許さないであろう。つまり、予防的な税金投入は政治的なリスクが大きく、政府は消極姿勢を続けるものとみられる。

 サブ・プライム・ローン問題は「格差問題」であると捉えることは極めて重要である。過剰融資によって自己破産に追い込まれた低所得層の住宅ローンの借り手と、言い方はやや悪いが、彼らを食い物にしつつ、一時的にせよ膨大な利益を挙げた金融界、という構図である。国民感情的には、政府が血税を使って破綻していない金融機関を救済することは簡単には認められないのである。安易な税金投入論は、政権や政党にかなり大きなダメージを与える可能性が大きいのだ。

 このため、大手金融機関も含めて、経営破綻ギリギリのケースは今後も発生する可能性があり、短期的には、金融システムの不安定性が低下するリスクがある。注意しなくてはならない。

 

以 上
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