2008年04月14日

白川 浩道
再燃した米国金融不安の行方・パート3


 筆者は、前回のレポートで、「FRB(米国連邦準備制度理事会)が大手証券会社ベア・スターンズの救済に当たって間接的に不良資産の買い上げまで始めたものの、当局が税金を予防的に投入して金融システムの健全化を図る可能性は低いから、まだ米国の金融危機が去ったとは言えない」(3月31日)と述べた。

 さて、こうした見方は引き続き正しいと言えるのか。この点について、先週末にワシントンで開催されたG7会合(先進7カ国財務大臣・中央銀行総裁会議)の結果も踏まえ、再度、検討することとしたい。

 まず、米国政府が税金を投入して金融機関の建て直しを図ろうとする可能性については、引き続き低いとみておいて良さそうである。

 住宅ローンの延滞や自己破産が引き続き増加の一途を辿っている中、米国では、政府ないし政府機関が不良住宅ローン債権の一部を買い取るべきではないか、との意見も出始めた。民主党のクリントン大統領候補などが提唱している。しかし、財務省など当局はこうした措置に対して依然としてかなり否定的である。ポールソン財務長官は、政府による不良債権買取りは買い取り価格の設定次第では税金投入による金融機関救済になることは明らかであるとして、強く反対する意向にあると伝えられた。

 さらに、筆者が最近意見交換した米国の政策当局者は、米国政府が金融界への税金投入に後ろ向きである真の理由として、次の点を指摘した。

 すなわち、「住宅金融バブルがはじけ、関連証券化市場の規模の縮小が視野に入った以上、金融界が現在の規模のままで収益性を維持できる可能性は低い。将来、金融機関が過当競争に陥らずに安定的に利益を出して行けるようにするためには、業界の再編、あるいはコンソリデーションが不可欠なのである。そうした観点に立てば、税金を投入して金融機関を下手に生き残らせることは好ましくない」というのである。

 ここでコンソリデーションという言葉は極めて重要である。コンソリデーション(consolidation)とは、合併とか統合という意味のほかに、強化という意味もある。要するに、ある業界が統合などによって経営基盤を強化することにほかならない。そうしたコンソリデーションを達成するためには、安易な税金投入で弱者を温存することは避けなくてはいけない、という発想なのである。

 このように、米国では金融機関への税金投入の可能性は依然低いが、それでは、金融危機のリスクはまだ大きいのであろうか。「まだ大きい」というのが筆者の2週間前の結論であったわけだが、週末のG7会合の結果をみて、見方を少し修正した方が良さそうであると感じている。言い換えれば、米国の金融界は最悪期を脱した可能性があるかもしれないのである。

 なぜか。それは、G7当局のイニシアティブの下で、まさに上記で解説したコンソリデーションが急激に進む可能性が出てきたからである。すなわち、G7諸国の金融当局は金融業界に対して、会計面における透明性の確保(サブプライム関連商品の評価損の徹底的な洗い出しと確定)と増資を、期限付き(2008年中間決算まで)で強く迫ったのである。直感的に考えて、バランスシートの弱い金融機関は合併を模索せざるを得なくなったわけで、その結果、米国内では、大手銀行、証券会社、モーゲージ銀行、地域銀行、保険会社などの系列化(いわば縦方向での業界再編)が、そしてグローバルには大手銀行グループ同志の合併(いわば横方向での業界再編)が、それぞれ進む素地が生まれたと言えるのだ。

 住宅価格下落の下でバランスシート調整が始まる米国経済は、少なくとも向こう1、2年は低成長を免れないであろう。しかし、業界再編というテーマを巻き込みつつ、金融機関の資本増強が進展するとすれば、金融不安が再燃する可能性は低くくなる。「A銀行がB証券を買う」、「C銀行グループとD銀行グループが合併する」などといったニュースが飛びかう時期もそう遠くないかもしれない。世界の株式市場は全体としてみれば当面の間、底打ち感は出にくいであろうが、業界再編をテーマとした金融株の動きには注目する意味があろう。

 

以 上
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