2008年08月12日

白川 浩道
景気悲観論を鵜呑みにすべきではない


 多くの株式市場関係者が世界景気と株価の先行きに悲観的である。米国経済は深い景気調整を経験するのではないか、日本経済は再び長い景気後退局面に突入するのではないか、という懸念が市場に蔓延している。

 実際、日米政策当局の発言にも弱気なものが多い。ポールソン米財務長官は、最近、「米国の住宅・金融市場が安定化するのは来年に入ってから」と指摘し、「米国景気は年後半には緩やかに回復する」というかつての見方を修正した。日本でも、与謝野新経済財政担当相が「日本経済が楽観できない状況に入りつつある」とした上で、国内景気が後退局面にあることを事実上認めた。

 さらに象徴的な出来事として、トヨタ自動車が四半期決算開始後はじめてとなる減収・減益を記録した。総合新聞各紙はこのニュースを世界経済変調のサインとして大きく取り上げた。

 もっとも、こうした世界経済変調論や景気悲観論には違和感がある。向こう1年程度を展望すれば、米国景気が再浮上する可能性が高いからである。

 米国の景気が一時的に再浮上する背景は大きく分けて3つある。


 第1に、原油価格の下落である。
 個人向け減税の実施、大手証券会社に対する大胆な救済策の導入、そして、直近の住宅金融拡充策の策定、といった一連の危機対応を受けて、ドル安期待には終止符が打たれた。この結果、商品市場に待避していた資金がドル市場に戻ってきた。その結果、原油価格はピークから20%程度も下落した。

 原油価格の下落を受けて、過去1ヶ月間にガソリン価格は5%以上も下落した。向こう1ヶ月程度でさらに5%は下落するだろう。そうなれば、年率換算で2.5%程度、個人所得が押し上げられる計算である。4月から始まった個人向け減税の80%以上がまだ支出に回っていないことも勘案すれば、米国の個人消費は回復傾向を示すものと予想される。


 第2に、金融システムが最悪期を脱した。
 依然として、市場では、米国の金融システムに対する不安感が根強い。確かに資本増強が遅れている地方銀行や貯蓄金融機関については大手であっても経営破たんのリスクがある。しかし、当局は二重三重にセイフティ・ネットを張り巡らせており、金融危機が発生する可能性は低い。

 金融機関に対するセイフティ・ネットには、連銀による流動性供給手段の拡充、財務省による資本増強支援(増資引き受け)スキームの確立、利益支援を目的とした会計基準の変更、などがある。今後、米国において金融システムを揺るがすようなイベントが発生するとは考えられない。


 第3に、住宅価格の下げ止まりが期待される。
 住宅価格は主要20都市では20%程度、全国平均でも10%超、ピークからそれぞれ下落した。向こう数ヶ月は緩やかな下落が続くものとみられるが、年明けには下げ止まりがはっきりするだろう。その最大の理由は、カリフォルニア、フロリダ、アリゾナなど住宅価格がバブル的に上昇した一部の地域を除いて、既に住宅価格が家計所得とのバランスでほぼ適切な水準まで低下したとみられるからである。そもそも米国の住宅バブルは、日本の土地バブルに比べてかなりマイルドなものであり、価格調整圧力はさほど大きくない。

 米国では、住宅価格上昇の過程で多くの個人が借金を大きく膨らませた。今後、数年をかけて米国の個人は“借金体質”を徐々に是正して行くことだろう。そして、その結果として、米国の経済成長率が趨勢として低下する可能性はある。具体的には、これまで2%台の後半はあった潜在成長率が2%程度にまで下がるリスクも否定できない。

 しかし、そうであるからと言って、米国の景気が後退的な局面だけを続けるわけではない。経済は生き物であり、短期的には浮き沈みする。中長期的には徐々に沈んでいく場合でも、一時的に浮上する場合があるというのが経済の面白さである。

 悲観論にばかり目を奪われていると、投資判断を誤る可能性があり、注意したい。

 

以 上
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