2008年10月03日

白川 浩道
サブプライム・ローン問題の倫理問題化で景気回復に遅れ


 前号では、「日本で言えばメガバンク下位の一角が倒れるような事態が生じた場合、米国の当局は、健全銀行も含め銀行システムに大々的に公的資金を投入し、不良債権の徹底処理を行わせるだろう。場合によっては、破綻銀行の預金をカバーする預金保険機構の資本増強にも乗り出す可能性がある」、「商業銀行が破綻し、預金者、消費者に直接的に危機が及ぶリスクが高まった場合、政府は手のひらを返したような積極対応に打って出るだろう」と書いた。

 こうした筆者の予想はほぼ当たっていたと言える。ワシントン・ミューチュアルといった最大のS&L(貯蓄金融機関)が破綻し、身売りされるというショックが生じるのと同時並行して、政府が税金を投入して金融機関の不良資産を買い取る方針を固めた。政府による不良資産買い取り価格は時価よりも高くなるはずであるから、不良資産を政府に売却した金融機関には売却益が生じる。これは形を変えた公的資金投入である。用意された資金は7,000億ドルと大きい。また、預金保険機構がカバーする預金額が1人当たり10万ドルから25万ドルに引き上げられることになったが、この結果、預金保険機構の資本増強の可能性も高まった。

 しかし、米国景気の先行きの展望はあまり明るくならない。それは、税金による不良資産購入は決まったものの、金融機関が積極的に不良資産を政府に売却するのか、かなり不透明なためである。

 なぜ、金融機関が不良資産の売却に躊躇するのかと言えば、政府に不良資産を売却すると、経営状態などを細かくチェックされる上、役員報酬を制限させられるなど、政府から様々な介入を受けるからである。場合によっては、政府から役員に人を送り込まれるかもしれず、ビジネス上も制約を受けるリスクがある。そうしたコストを払ってまで不良資産を政府に勝ってもらおうとは思わない可能性がある。

 勿論、本当に困っている一部の金融機関は政府に不良資産を買い取ってもらおうとするだろう。しかし、そうした行動が皆にわかってしまえば、「あそこは政府に不良資産を売却している。切羽詰っている証拠だ」と噂されかねない。大手銀行が横並びで政府に不良資産を持ち込めばそうした問題は回避できるが、米国は日本と違い、横並び意識は低い。

 米国政府は、金融機関が積極的に利用しないかもしれない制度をなぜあえて作ったのか。実は、米国政府(特に財務省)も、当初は、金融機関をあまり締め付けずに不良資産を買い取ることを考えていたようである。しかし、議会あるいは国民の「安易な銀行救済は許さない」という強い反発にあって、軌道修正せざるを得なくなったのである。「サブプライム・ローン問題は、銀行が借金を返せないとわかっていた借り手に無理矢理に貸し込んだことが原因。銀行のモラルの無さが今の事態の招いたのであって、全ての責任は銀行にある」というのが、多くのアメリカ人の考えになっている。

 サブプライム・ローン問題は、景気や経済の問題から倫理や道徳の問題になってしまった。米国政府の金融機関救済はこれまで考えてきたよりも腰の引けたものになるだろう。

 政府介入を嫌う金融機関は不良資産買い取り機関の利用を控えるとともに、結局、合併や買収を通じて、バランスシートの強化を図っていくしかない。しかし、こうした市場型の再建がスムースに進捗する保証はない。大胆な資産圧縮や業務合理化という高いハードルを乗り越えなくてはならないからだ。

 金融機関の再生が遅れれば、米国景気の回復も遅れる。公的資金をどーんと投入して一気に不良資産のウミを出さなくてはならない時期に来ているのに、それができない。由々しき事態である。

 

以 上
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