2008年10月28日

白川 浩道
見えない株価の底入れ


 欧米では、銀行に対する公的資金の注入が決定されるとともに、預金に加え銀行間取引や銀行の発行する社債に対してまで政府保証が付されるなど、当局の危機対応は大きく前進した。

 それにもかかわらず、世界的な株価の下落が止まらない。円キャリー・ポジションの巻き戻しによる急激な円高も加わって、日経平均株価はバブル崩壊後の最安値(7,607円)をあっさり割り、ザラ場で6,000円台を付けた。まさに株式市場は暴落の様相を呈している。

 純資産倍率や配当利回りといった伝統的な株式指標をみる限り、確かに株価の割安感は強まっている。市場参加者の一部が「底入れの時期は近い」との指摘を行う所以である。実際、米国政府による不良資産買い取りスキームの具体策公表などをきっかけとして、世界的に株価が反転上昇するシナリオを描けないわけではない。

 しかし、日経平均で7,000円程度が株価の底であったと判断するのは時期尚早である。個人的には、株価の下落基調は少なくとも向こう2年程度は継続する可能性が高いと考えており、底値がどの程度の水準になるのか、正直言ってわからない。唯一言えることは、株価が7,000円を大きく下回る水準にまで下落する可能性はまだ十分にある、ということである。

 株価の底入れがみえない最大の理由は、「向こう3年程度、すなわち2011年後半までは、世界景気の低迷が続く可能性が高い」という点に尽きる。世界景気の後退局面は始まったばかりであり、登山に例えればまだ2合目程度をふらついている段階である。世界景気の底打ちが見えるのは、どんなに早くても2010年終わり頃であり、世界の株価がそれ以前に安定的な回復基調に戻るとは思えない。

 向こう3年程度は世界景気の低迷が継続すると考えている背景については、以下のように要約される。

 第1に、米国景気は、向こう2年については厳しい後退局面を、その後も3年間は低成長局面を、経験する可能性が高い。

 来年発足する新政権は追加減税など新たな景気刺激策を導入するとみられるが、効果は殆どないだろう。米国では、個人、企業、金融機関のバランスシート調整が同時的に進むと予想されるからである。まさに、ディ・レバレッジング、あるいはダウン・サイジングの広範化であり、そこから生まれるデフレ圧力を伝統的な財政政策で抑制することは不可能である。ちなみに過去の経験則をみる限り、米国では、企業のバランスシート調整に5〜6年、金融機関のバランスシート調整に3〜4年、それぞれ要している。

 第2に、ユーロ圏経済が米国経済に1年程度遅れて景気調整局面に入った。

 ユーロ圏経済の問題は、域内に自律的な景気調整要因を抱えていることである。昨年にかけての景気拡大局面では、銀行信用と設備・住宅投資の同時的拡大、それを反映したマネーサプライの高い伸び、住宅価格の上昇、資産効果による個人消費の拡大が生じていた。足元ではその逆回転がスタートした。ユーロ圏の景気調整にもかなりの時間を要するだろう。マネーサプライと銀行信用の水準が正常化するのに3〜4年かかっても全く不思議ではない。

 第3に、高成長を維持してきた新興市場国・途上国については、2009年から景気の鈍化が鮮明になり、2013年頃まで経済成長率の低下傾向が続くと予想される。新興市場国・途上国景気と先進国景気の間には2〜3年のラグ(時間差)が存在するからである。

 新興市場国・途上国経済にとっての成長阻害要因としては、先進国の景気後退に伴う資源価格の下落、世界的なリスク・マネーの縮小、金融・財政規律の強化(ユーロ導入を模索する中・東欧諸国を中心に、足元の通貨危機後はより健全なマクロ経済政策運営が求められることになる)、などを指摘できよう。

 サブプライム問題に端を発した世界金融危機はその深度を増しつつあるが、世界景気の後退が本格化するのはこれからである。慎重な金融資産運用が望まれる。

 

以 上
TEL: 03-5297-7311 - FAX: 03-5297-7314
Copyright © 2000 CMD Co., Ltd. All rights reserved.
Prev Index Next