2008年11月24日

白川 浩道
2009年の3つのキーワード:中国、埋蔵金、円高


 2009年の日本経済を見通すに当たって3つの点に注目したい。
第1は、新興市場経済とりわけ中国経済の動向である。
第2は、国内財政政策の動向である。
そして、第3は、日米の金融政策の動向である。

 まず、第1の新興市場経済の動向である。

 国際商品相場の大幅な下落や金融・信用危機の世界的な伝播・波及を背景に、先進国経済と新興市場経済の間のディカップリング(連動性)論は後退した。つまり、「先進国景気が悪化すれば、新興市場景気も悪化する」という見方が一般的になった。

 しかし、「新興市場国経済は先進国経済に比べて高い成長率を維持する」という本質は何ら変わっておらず、米国を中心とした先進国の経済が低成長を続ければ、新興市場経済が世界景気の牽引役としての地位を一段と高めることになる。

 新興市場国経済の高成長を支えるのは、根強い社会インフラ投資需要と政府の投資余力の高さである。新興市場国は、中・東欧諸国など一部の地域を除けば、2007年にかけての世界景気拡大局面において対外収支黒字を維持した。そうした黒字の蓄積が政府を中心とした国内部門の投資余力の高さに繋がっているのだ。

 中国政府は、「向こう2年間で4兆元、日本円にして50兆円強」という景気対策を打ち出した。一部には、こうした対策の実効性を疑問視する声もあるが、過去数年間において膨大な外貨を稼いだ中国に国内投資を刺激・拡大するのに十分な余剰資金が存在しているのは事実である。

 このように、中国を中心としたアジア新興市場経済の内需が高い成長を達成する可能性は十分にある。そして、日本経済がアジアの高成長の恩恵に浴する可能性も高いのである。

 第2の国内財政政策の動向である。注目すべきは、衆院選を控えて政府の財政政策運営姿勢が本格的な拡張型に転換しつつある、という点である。

 「景気悪化による循環的な税収の減少、財政赤字の拡大という状況から判断して、景気刺激策導入の余地は小さい」というのが、つい数ヶ月までの共通認識であった。しかし、9月以降に政府が策定した緊急経済対策は国費(いわゆる真水といわれる純支出部分)が、中小企業に対する信用保証や金融機関への公的資金注入といった金融対策部分を除いても9.6兆円(筆者推計)と約10兆円に達した。実体経済に対する実効性に関しては様々な見方があろうが、少なくとも景気対策の規模としてはそれなりに大きいものが打ち出されたと評価すべきだ。

 重要な点は、財政拡張による景気刺激を可能にしたのが、いわゆる“埋蔵金”の取り崩しであるという点である。上記の約10兆円の景気対策のうち、特別会計に純資産などの形で蓄積されてきた余裕資金、つまり“埋蔵金”によって手当てされたのはおよそ9兆円である。景気対策のなんと9割は“埋蔵金”の取り崩しで実現したのである。

 さて、“埋蔵金”はあといくら残っているのであろうか。一部の財政学者の推計をベースに試算すると、20〜30兆円はありそうである。無論、この“埋蔵金”が一気に取り崩されることはない。しかし、“地方経済が疲弊する中で与野党を逆転させる可能性が高い”衆院選が実施されるという現状に照らせば、2009年半ばにも、再び“埋蔵金”を使った追加景気対策(焦点は社会保障の充実化、法人税減税、本格的な省エネ投資減税など)が導入されるだろう。その結果、中国ほどではないにせよ、日本の内需が本格的に上向き始める可能性がある。

 第3の日米金融政策の動向であるが、これが重要であるのは、為替相場(円ドル相場)の方向性に決定的な影響をもたらすと考えられるからである。

 米国では、金融システム不安の深刻化や信用市場の機能低下を受けて、積極的な金融緩和が行われており、中央銀行(連邦準備銀行)の中心的な負債であるマネタリーベースは急激に膨張している(そのGDP比率は2008年8月には6%弱であったが、足元では11%を超えた)。2009年においても、こうしたマネタリーベースの膨張が続くとみられ、2009年末には、マネタリーベースGDP比率が日本の量的緩和期のピークにも迫る20%程度にまで上昇するものと予想される。

 このように米国はドル紙幣を非常に速いペースで刷っており、金融市場にドルがばら撒かれている。こうして印刷されたドル紙幣のかなりの部分はドル建ての国債に向かうことになる。また、米国では個人や企業の資金需要が低下するため、民間銀行のバランスシートでは貸出が減る。このため、政府から公的資金を受け入れた銀行は資金運用難に陥り、結果として米国債を買うことになる。つまり、米国債市場には中央銀行が印刷したドル紙幣と民間銀行資金の両方が流れ込むことになり、オバマ政権が仮に大型景気対策を理由に米国債を大量に追加発行したにせよ、その価格は上昇基調を辿る可能性が高い。すなわち、米国の長期金利は低下を続けることになるとみられる。これはドル安をもたらす。なぜなら、ドルの金利が大きく低下すれば、海外の投資家にとってドルを保有する魅力が低下するためである。

 ドル紙幣の膨張とドル安は円高を意味する。つまり、2009年は円高がさらに進む可能性が高く、製造業では円高不況を懸念する声が強まるだろう。

 円高を食い止めるためには、日本も米国に対抗して円紙幣を増刷しなくてはならない。しかし、日銀は、今のところ、いわゆる量的緩和を拡大し、円をどんどん供給する姿勢にはない。なぜなら、政府が内需拡大を狙った景気対策を積極的に打ち出し、円高のデフレ圧力を相殺してくれているからである。衆院選前に追加景気対策が導入されれば、日本経済の円高耐久力は益々高まり、結果として円高が進むことになる。1ドル70円台の円高が生じる可能性も否定できない。

 以上をまとめると、2009年の3つのキーワードは、中国、埋蔵金、円高となる。この3つのキーワードを参考に金融投資戦略を練ることをお薦めしたい。

 それでは、皆様、良いお年をお迎えください。

 

以 上
TEL: 03-5297-7311 - FAX: 03-5297-7314
Copyright © 2000 CMD Co., Ltd. All rights reserved.
Prev Index Next