2009年02月17日

白川 浩道
オバマ政権の発足と株式市場


 オバマ政権の発足と株式市場の先行きに関する平均的な見方は以下のようにまとめられよう。

 オバマ政権の追加景気対策については、即効性は期待できないが、環境対策や医療システム改善など中期的にみて評価できるものが入っている。金融安定化策についても不良債権の抜本処理には今しばらく時間がかかるが、いわゆる“バッド・バンク”(金融機関の不良資産を買い取る機関)構想にも工夫の後がみられ、捨てたものではない。オバマ政権の政策対応は“ゆっくりではあるが、着実に”米国経済の建て直しに寄与するはずである。その結果、年後半から年末にかけて株式市場も反転上昇に向かう可能性がある。

 こうした市場の平均的な見方には、「発足したばかりの米国新政権がすぐに景気や金融システムを立て直せるはずはなく、過度の期待を持つことは禁物である」というメッセージがこめられている。この点に関してはまさに同感だ。大統領が交代しただけで米国経済の先行き見通しが改善するのであれば、苦労しない。

 しかし、個人的には、米国の先行きについてかなり悲観的な見方をしており、株価底入れのタイミングについて、まだイメージすら湧かない。

 ストレートに言えば、新政権の政策運営は米国経済を長期間にわたって低迷させる可能性、つまり日本経済がかつて経験したような「失われた10年」に突入させてしまう可能性を持っている、という意味で懸念している。

 なぜ新政権は米国経済の再生に失敗するリスクがあるのか。その最大の理由としては、新政権の関心が“経済の安定と様々な意味での格差の是正”にあり、“経済の改革と成長”にはない、という点を指摘したい。

 「新政権の軸足が成長というより社会的安定にある」ことは、総額8,000億ドル弱にも及ぶ追加景気対策や、ガイトナー財務長官が公表した金融安定化プログラムに端的に現れている。

 すなわち、5,000億ドルもの追加政府支出のうち、3,000億ドル超は、州政府支援(医療保険支援や赤字補填)、失業者対策、公的教育の充実といった広い意味での社会保障政策に充当される見込みであり、成長戦略と呼ぶことはできない。グリーン・ニューディールと呼ばれる環境対策についても、長期的視点に立ったエネルギー安全保障政策の初期段階というイメージを拭えない。実際、エネルギー関連支出は200億ドル程度と規模も小さい。

 また、2800億ドル程度の減税についても、個人向けのバラマキ型支出と言えるようなもので、内容はあまり良くない。1人当たり400ドルの税還付と中間所得層向けの一時的な減税が大半を占め、前向きな企業向け減税はほとんど入らなかった。設備投資を活性化することで企業の生産性や競争力を高めようという発想が欠如していることについては、やはり残念と言わざるを得ない。

 さらに、金融安定化プログラムは、長く米国経済に宿ってきた成長の源泉たるダイナミズムを大きく低下させかねないリスクをはらんでいる。ストレス・テストという特別な手法を活用して銀行の資本不足状態を洗い出し、半ば強制的に政府が公的資金を投入した上で銀行に融資の維持を求める、というのが米国政府の基本戦略のようだ。要するに、銀行に公的資金を無理矢理に注入し、貸し剥がしや貸しぶりを阻止するということである。

 ここでは、産業構造改革や金融構造改革というコンセプトは見えてこず、足元の雇用の確保と現状維持が最優先されている。痛みを伴う経済構造改革を嫌って抜本的な不良債権処理を先送りしてきた日本の1990年代後半の状況にかなり似ているのである。

 ブッシュ政権時代にその全盛期をおう歌した自由市場資本主義は、今や強欲資本主義と呼ばれるようになり、格差の拡大と資産バブルに依存した不安定な景気拡大をもたらしたという点を中心に、その欠陥が世界中で叩かれている。

 考えてみれば、オバマ政権はブッシュ政権の失政を批判することで成り立っている面があり、その意味で、振り子は180度反対に振れつつある。反対に振れた振り子(自由主義の否定と政府介入の拡大)の下で、米国経済は安定を取り戻すかもしれない。しかし、米国経済を次なる成長や発展に導くアイデアや新産業の登場は遅れるだろう。そうなれば、残念ながら、株価の反転上昇局面の到来も見えてこない。

 株価反転のタイミングを論じることそのものに違和感を感じる段階にあることを繰り返し述べておかなくてはならない。

 

以 上
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