2009年06月30日

白川 浩道
危うい景気・株価回復論


 鉱工業生産は4月、5月と2ヶ月連続で6%近い伸びを記録した。2月のボトムから約14%の増加である。衆院選を控えた政治的な思惑もあって、政府は「景気は底打ち、緩やかな回復へ」という見方を強めるだろう。

 確かに、日本の輸出の先行指標である米国や中国の製造業景況感指数は足元で順調な回復をみせている。秋口にかけての日本の輸出の回復も鮮明なものとなるだろう。製造業の在庫調整がそれなりに進展したから、鉱工業生産も増加傾向を辿る可能性が高い。

 日本経済は輸出と生産の急激な落ち込みを受けて、昨年10-12月期、本年1-3月期と深いマイナス成長を記録した。輸出と生産に対する感応度が高い経済であることが改めて確認された。従って、輸出と生産がリバウンドすれば、経済成長率もリバウンドするだろう。足元の2、3四半期は平均でプラス4-5%という高めの成長を達成できる可能性が高い。

 このため、日本株投資で出遅れている一部の外人投資家が日本株の見直し買いに動く可能性がある。米国の金融緩和が徐々に修正される可能性が出てきた中で新興市場国に対する投資熱が幾分低下してきていることも、そうした日本株見直し買いを側面支援する材料となりそうである。

 しかし、楽観は禁物である。少なくとも3つの懸念材料があるからだ。

 第1に、生産活動は回復基調にあるが、最終需要については不透明感が強い。

 日本の輸出のうち、およそ6割は生産財と呼ばれる中間財、広い意味での部品である。何らかの理由で世界的に生産活動が上向けば、日本の部品に対する発注が増加する。これは自然な動きだ。世界中の多くの企業は「リーマン・ショックを受けた信用収縮から世界的に貿易取引が急減する」という最悪期を脱した安心感から、生産増加に動き出した。日本の輸出や生産の回復にはそうした動きが反映されている。

 しかし、最終製品に対する世界需要が本当に回復しているのかどうか、生産を増やしている日本企業の現場でも実際はよくわからない、という話をよく耳にする。日本のメーカーの部品増産は見切り発車的な色彩が強いということである。怖い話だ。

 第2に、生産がある程度増加したにせよ、水準は依然としてかなり低い。イメージとして示せば、製造業の工場稼動率はどんなに頑張っても60-65%にしか回復しない可能性があるということである。稼動率は昨年1-3月期の84%がピーク、今年1-3月期のボトムが50%であった。ボトムの50%からは回復するが、昨年のピークには遠く及ばないということである。

 低稼働率で利益を出そうと思えば、多くの企業は思い切ったリストラを断行せざるを得ない。人件費と設備投資の抑制である。このため、国内景気が回復するシナリオは当面の間、全く描けない。

 第3に、株価のバリュエーションが高過ぎる。東証1部でみた場合、株価収益率(PER、予想ベース)は36倍、純資産倍率(PBR)は1.2倍である。PERの2008年平均は17.4倍であり、PBRのそれは0.97倍であった。日本株のバリュエーションは循環的な景気底打ち局面では上昇しやすく、市場もそうした日本株の特徴を理解し、納得している。しかし、そうであるからといって、高いPERやPBRを正当化し続けられるとは限らない。

 企業の利益見通しが弱過ぎると切って捨てるわけにはいかない。最終製品に対する需要が不透明であり、生産活動が秋以降に反落する可能性を考えれば、企業の利益見通しは妥当なものである可能性が高い。従って、株価はやはり割高な可能性が高い。

 短期的に日本株上昇の余地はあるかもしれないが、持続性には多いに疑問がある。注意したい。

 

以 上
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