2009年07月30日

白川 浩道
子ども手当てと出生率


 7月27日、民主党はマニフェスト(政権公約)を公表した。「国民の生活が第一」とのキャッチ・フレーズの下、家計向け所得補償に傾斜した政策を打ち出した。

 具体的には、2010年度以降に随時導入される経済対策が出揃う2013年度には、2009年度対比でみて16.8兆円もの財政資金が新たに投入される計画となっている。主な項目を挙げると、
1.新型子ども手当ての導入(5.3兆円)、
2.暫定税率の廃止(ガソリン減税、2.5兆円)、
3.医療・介護の拡充と後期高齢者医療制度の廃止(2.9兆円)、
4.高速道路の無料化(1.3兆円)、
5.農家に対する所得補償(1.0兆円)、
6.雇用対策・最低賃金の引き上げ(1.0兆円)、
などである。

 他方、16.8兆円の追加財政支出の財源については、
[1]無駄な歳出の削減(9.1兆円)、
[2]いわゆる「埋蔵金」や政府資産の売却(5.0兆円)、
[3]増税(2.7兆円)、
が見込まれている。
[1]は、独立行政法人や特殊法人など公的法人向けの補助金、公務員の人件費、そして公共工事の削減が柱となっている。
[3]については、現段階ではほとんど具体的な内容がわからないが、高所得層をターゲットに個人所得税の実質増税(配偶者・扶養者控除の削減・廃止など)を計画しているものとみられる。

 要するに民主党のマニフェストでは、政府の無駄な歳出の削減を中心に財源を捻出し、若年層や低・中所得層に手厚い所得支援を実施することがうたわれている。所得移転という観点からみた場合、「肥大化した公的部門から家計部門へ」ということになる。暫定税率の廃止や高速道路無料化は地球温暖化に逆行している、との批判は出るだろうが、多くの有権者は民主党のマニフェストを支持するとみられる。よほどの不測の事態が発生しない限り、衆院選後に政権交代となる可能性が高い。

 政権交代は株式市場にとってプラスか、マイナスか。現状での理解は、「プラスの可能性が高い」というものである。以下でこの点を解説しておこう。

 筆者は、元々、政府がすべき仕事は社会インフラの整備であると考えている。社会インフラの整備とは要するに公共投資である。政府が率先して医療、環境、交通(港湾、空港)の先進化を進めることは極めて重要だ。社会インフラの陳腐化や老朽化は公的サービスの質の低下を通じて国民生活にマイナスのインパクトを及ぼすだけでなく、労働生産性も低下させるからである。しかし、民主党のマニフェストに社会インフラ整備というコンセプトは見当たらない。この点は残念である。

 また、国民の関心が高い公的年金制度に関しては、月額7万円の「最低保障年金制度」の創設を打ち出しはしたものの、抜本的な改革への踏み込みはみられなかった。国民の将来不安が解消されない限り、家計貯蓄率は高止まりし、個人消費は低迷を続ける可能性が高い。これもマイナスだ。

 しかし、株式相場は上昇する可能性がある。これまでの悲観的な見方を簡単にはとり下げたくないが、選挙後に日本株市場に海外から資金が流れ込んでくる可能性を無視できない。

 まず、世界的にリスク・マネーが再び拡大している。不良資産問題が峠を超えた欧米大手金融機関がリスク資産に対する投資を積極化させ始めているからである。彼らは、少しでも前向きな話があれば、それに乗りたいと考えている。

 民主党のマニフェストにおける前向きな話とは何か。ずばり、新型子ども手当てである。中学生までの子ども1人につき、2010年度は15.6万円、2011年度以降は31.2万円が支払われるという策であるが、外国人はこの措置を高く評価する傾向がある。日本の出生率の低下に歯止めがかかり、潜在成長率が上向く可能性があるとの発想が背景にある。日本の投資家が玩具や子供服が売れるのではないかと言っているのとはスケールが違う。

 特殊法人などの不透明な公益法人を整理、無駄な補助金を削減し、その資金で出生率の引き上げを狙っている。これが外国人投資家の民主党評である。彼らの目に民主党の経済対策は、“改革”と“成長”のコンビネーションと映る。

 日本のメディアの多くは、現与党による「民主党の政策は財源が不透明」というネガティブ・キャンペーンばかりを報道しているが、こうした報道姿勢については、ややずれていると言わなくてはならないかもしれない。市場の関心は、財源論にではなく、子ども手当てと出生率の関係にあるのだ。筆者もこの関係を分析し、近々発表したいと考えている。

 

以 上
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