2009年09月30日

白川 浩道
株式市場に暗雲、楽観論は控えるべき


 前回のレポートでは、新政権発足を受け、向こう数ヵ月については株式市場に対して強気の姿勢を維持できるのではないか、と指摘した。

 しかし、選挙後の過去1ヶ月間を振り返ると、強気姿勢を維持することに大きな不安を覚える。 いくつかの悪材料が噴出し始めており、それらが株価の足をひっぱる可能性があるとみられるからだ。

 第1に、新政権には経済成長戦略がないことを改めて思い知らされた。

 「新政権の主たる政策目標が格差是正と経済安定の確保にあり経済成長にはない」ということは選挙戦の前から指摘されていたことであり、市場参加者の共通認識であった。 その意味で、いまさらのように「成長戦略がない」と叫ぶことはフェアではないかもしれない。 しかし、改めてそう叫びたくなるほど、新政権の政策運営には危うさを感じる。

 まず、為替政策である。 現下の日本経済で円高を容認することなどあり得ないが、新政権は円高容認的な姿勢を示した。 “積極的な円安誘導はしない”というのが真意のようであるが、微妙なニュアンスの違いを読み取れるほどの余裕は今の株式市場にはない。 市場には、円高イコール経済低迷という発想が根強く(その発想は間違っていない)、今後も、政府が円高を容認するような姿勢を示すたびに株価が下がるだろう。

 日本経済の円高耐久力が低下しているのは、日本企業の国際競争力が低下傾向にあるからである。 金融危機後の世界経済の姿は大きく変わった。 高付加価値、高額の製品は売れず、低付加価値、低額の製品が売れる時代に突入した。 景気を牽引する新興市場国の1人あたり所得水準は依然として先進国のそれの10分の1にも満たない。 高付加価値、高額の製品を作ってきた日本企業が立ち直るためには、先進国で再び不動産価格や株価が大きく上昇し、富裕層が元気になる必要がある。 しかし、それはまだまだ先の話だ。 それまでは円相場が円安気味に推移してくれないと困る。

 次に、公共事業である。 公共事業にも良いもの、悪いものがある。 公共工事を全てひっくるめて悪だと決めつるわけにはいかないし、公共事業費を削減しさえすればよいというものではない。 公共事業をただ削減することが如何にデフレをあおり、国内経済を弱体化させたかは、自民党政権が実証してくれたはずだ。 経済成長を真剣に考えるのであれば、生産誘発効果が大きいプロジェクトを洗い出し、そこに税金を重点配分することを決めるのが先決であろう。 予算を停止し、ダムなどの大型プロジェクトをストップさせるだけでは将来の成長は全く見えてこない。 問題である。 なお、良い公共事業とは、大都市再開発、港湾整備、代替エネルギー関連投資などである。

 第2に、政治的な安定性が確保されているとは考えにくい。

 不安材料の第1は国民新党、社民党との連立である。 両党との関係をめぐって民主党内で不協和音が聞かれるようになるかもしれない。 そうなれば、市場としては与党第一党としての安定性に疑いを持たざるを得なくなる。 自民党が弱体化してしまったことも懸念材料である。 分裂するほどのエネルギーはないとみる政治評論家もいるが、追い詰められているだけに予想外の動きが出てくる可能性も否定できない。

 第3に、国民のしらけムードが怖い。 各種世論調査によれば、政権支持率は70%を超え、極めて高い。 しかし、新政権の誕生で国民のやる気やコンフィデンス(自信)が回復しているわけではなさそうである。 政権発足後のデータはまだないが、政権交代が十中八九みえていた8月についていえば、消費マインドの改善が止まってしまった。 驚くに足らないかもしれないが、政権交代によって景気が良くなると考えている有権者はほとんどいないということだろう。

 最後に、世界経済のムードが再び悪くなり始めた。 米国の住宅市場の回復がなかなか見えてこないことが最大の懸念材料である。 米国では未曾有の金融緩和が続いており、30年物の住宅ローン金利も節目の5%を下回る、歴史的にみれば、非常に低い水準にある。 しかし、住宅ローンの借り換えは進まず、また新規借入も伸びてこない。 経済の先行きに強い不安を抱いている米国の個人が住宅購入を見合わせていることの証左である。 米国不動産価格が底を打ったとの見方は早晩、崩れるかもしれない。 そうなれば、米国景気回復シナリオにもかげりがさすだろう。 注意したい。

 いずれにせよ、当面は楽観論を控えた方が良さそうである。 悪材料が消えることを願うばかりである。

 

以 上
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