2009年11月16日

白川 浩道
悪化する米国データ、高まる二番底リスク


 日本の09年7-9月期のGDP統計が公表された。前期比(年率)でプラス5%成長(正確にはプラス4.8%)の高成長となった。4-6月期はプラス3%成長であり、2四半期連続で高めの成長となった。日本のGDPのこうした回復は米国や欧州よりも大きく、「日本経済は米・欧よりも好調である」との見方が出てくるだろう。しかし、そもそも日本経済はリーマン・ショック後の経済の落ち込みが最も深かったこと、麻生政権が総額20兆円(金融対策を除く)を上回るような膨大な景気対策を導入したことを忘れてはならない。民間経済の“活動水準”が本格的に回復しているわけではない。

 そうした中、以下に指摘するように、足元では、米国の経済データが再び急激に悪化している。米国景気二番底のリスクが大きく高まっていると言わざるを得ない。株価の急激な調整や長期金利の急低下に備える必要がある。米国では、まず、消費者マインドが悪化し始めた。11月のロイター・ミシガン大学調査によれば消費者態度指数は66.0となり、2ヶ月連続で低下した。市場コンセンサスは前月比ほぼ横這いの70近辺であった。

 雇用情勢が最悪期を脱したにもかかわらず、消費者マインドが悪化しているのは米国経済の先行き不透明感の高まりを示唆している。実際、ロイター・ミシガン大学調査でも消費者の先行き期待指数の方が落ち込みが大きい。

 消費者の先行き期待が悪化している1つの可能性として考えられるのは住宅価格の回復の遅れである。確かにケース・シラー指数(全米20都市の住宅価格を調査)などでみる限り、都市部の住宅価格は底入れしたようにもみえる。しかし、春先に下げ止まったかに見えた全国ベースの中古住宅価格は足元で緩やかな下落傾向にある。問題なのは、こうした住宅価格の軟調推移を受けて、多くの家計のバランスシートが再び悪化傾向にある可能性が高いことである。自宅不動産を担保にしたホームエクイティ・ローンを中心に合計で2.5兆ドル(220兆円程度)ある消費者ローンのうち、現状で5,000〜6,000億ドル(50兆円前後)は過大な借入れ(担保不動産の価値下落に伴う過剰部分)になっていると推計されるが、こうした過大な借入れが、ついにここに来て、米国消費者のマインドを本格的にむしばみ始めている可能性がある。

 米国個人消費が雇用者所得対比でみた場合、依然として膨張し切ったままであることも懸念される。個人消費の雇用者報酬に対する比率は上昇の一途を辿っているのだ。リーマン・ショックという未曾有の金融危機が発生したにもかかわらず、米国の消費者は消費行動をこれまで殆ど抑制していない。これはまさに驚きであるが、裏を返せば、米国個人消費がいつ急激に落ち込んでもおかしくない。

 第2に、住宅モーゲージ(住宅ローン)借入が再び失速している。米国モーゲージ銀行協会によれば、最新データである11月6日で終わる週のモーゲージ借入指数は新規借入指数が220強となり、前週比12%の下落、リーマン・ショック後のボトムを更新した。完全な失速状態である。住宅購入者に対する最大8,000ドルの補助金措置が11月末で終了することが影響した可能性はある(実際には同措置は来年4月末まで延長されることになった)が、それにしても弱い数字である。住宅需要は依然として極めて弱いことが改めて確認された。

 第3に、これが最も深刻であるが、米銀のバランスシートが急激に縮小している。商業銀行全体でみた銀行信用(証券投資を含む)は足元で大きな前年比マイナスに転じた(10月前年比−5.4%)。チャートでみれば一目瞭然であるが、目を覆いたくなるような急激な落ち込みである。国債など流動性の高い証券の保有は増加しているが、一般企業向けローンや消費者ローンが減少しているためである。

 こうした銀行信用の急激な縮小に関しては、先行き不安の高まっている家計や企業の借入需要が低迷していることを反映している面はあろうが、米銀のリスク・テーク能力が低下している証左と捉えることも必要であろう。米国では、景気の悪化によって不良貸出債権が増大しているが、その結果、中堅・中小の地方銀行に対する市場の目が厳しくなり、銀行は資金難に直面しつつあるようだ。これが銀行の業務規模の縮小をもたらしている可能性がある。

 このように、米国経済では、消費者マインドの悪化、住宅モーゲージ借入れの失速、銀行のバランスシートの急激な縮小、が起こっている。こうした状態にあるにもかかわらず、オバマ政権は赤字の削減を目的に財政政策を早期に健全化する姿勢にあるし、中央銀行であるFRB(連邦準備制度理事会)も金融緩和政策の縮小を模索し始めている。危険極まりない行為である。市場関係者、投資家は株価の急激な下落という最悪の事態に備えるべきかもしれない。

 

以 上
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